おやぢの部屋2
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Blue Hour(Blaue Stunde)
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Andreas Blau(Fl)
Hendrik Heilmann(Pf)
MDG/308 1659-2




ベルリン・フィルの首席フルート奏者のポストを長年にわたって務めているアンドレアス・ブラウのソロアルバムです。どのぐらいの「長年」なのかというと、彼が20歳という若さでベルリン・フィルに入団したのが彼の師であるカールハインツ・ツェラーが退団した1969年ですから、もう40年以上も首席の座にあるということですね。ベルリン・フィルという、「世界最高のオーケストラ」で、これだけ長くトップを吹いている人は、他にはいません。
なにしろ、彼が入団したときにはまだあのカラヤンが指揮者でしたからね。さらに、首席奏者を2人置いているベルリン・フィルでは、もう一人の首席も替わっています。彼と同じ年に入ったのがジェームズ・ゴールウェイ、そのあとが「出戻り」のツェラー、そして現在はエマニュエル・パユですね。
ブラウは、もちろんオーケストラ・プレーヤーとしてだけではなく、ソリストとしての活動も行っています。しかし、彼の「相棒」たちに比べたらそのディスコグラフィーはとても慎ましいものでした。というか、若い頃に録音したモーツァルトのト長調の協奏曲(EMI)や、フルート四重奏曲(DG)以外のディスクは、今まで聴いたことがありませんでした。それが、もう還暦を過ぎた頃にこんなアルバムを出してくれたのは、ちょっとしたサプライズですね。
「青い時」という、まるでフラダンスの上手な女優(それは「蒼井優」)のようなタイトルですが、これは「blue」のドイツ語「blau」と、彼の名前を引っかけたものなのでしょうね。これを見た時には、いつも、まるで堅物そのもののような形相でくそ真面目にオケでのソロを吹いているブラウですから、その「ブルー」にジャズっぽい意味を持たせ、暗~いジャズのナンバーでも演奏しているのかな、と思ったのですが、それはどうやら考え過ぎだったようです。確かにここに集められた曲はクラシックだけではなく、ポップスもありますが、そこにはジャズの要素は全くありませんでした。
まず、最初に聞こえてきたのがラテンの名曲「ティコ・ティコ」でした。いかにもダンサブルなこの明るい曲を、ブラウはめいっぱい軽やかに吹いてくれています。アクロバティックな細かい音符一つ一つをていねいに、しかも決してリズムを崩さずに演奏している姿は、やはりオケの中でどんな難しいパッセージでも的確にこなしている日常が反映されたものなのでしょう。この年になってもメカニカルな面での衰えが全くないというのは、ある意味驚異的です。
次の曲は、ロドリーゴの「アランフェス協奏曲」の第2楽章。こちらでは、全く対照的にしっとりと歌う側面が強調されます。それが、ありがちな甘ったるさではなく、あくまで節度を保った中での情感の吐露という、いかにもブラウらしいものであることに、安心させられます。
ここで取り上げられた曲の中では、「タンゴ」がかなりの数を占めているあたりが、ブラウの趣味を感じさせてくれるところです。もちろん、それはピアソラのような現代的なものではなく、「ラ・クンパルシータ」や「オレ・ガッパ」、そして「ジェラシー」といった古典的なタンゴです。ドイツにはコンチネンタル・タンゴの土壌がありますから、もしかしたらブラウは小さい頃からこれらの曲に慣れ親しんで来たのかもしれませんね。クラシックからほどよい距離を保っている「タンゴ」は、確かに彼にとっては全く違和感のないレパートリーなのでしょう。
派手さはないものの、堅実な日頃の積み重ねがそのまま反映されたような、じんわりと良さがしみ出してくるアルバムでした。このような姿勢の方が、第一線で活躍できる演奏家としての寿命が長いのではないか、などと思ってしまいます。そんな意味で勇気を与えられるアルバムでもあります。

CD Artwork © Musikproduktion Dabringhaus und Grimm
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by jurassic_oyaji | 2010-11-25 23:36 | フルート | Comments(0)