おやぢの部屋2
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HOLST/The Planets
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Vladimir Jurowski/
London Philharmonic Orchestra and Choir
LPO/LPO-0047




自主レーベルの中でもアーカイヴ色の強いLPOですが、これは2007年から首席指揮者を務めているユロフスキとの新録音です。さすがに、怪しげな放送音源などとは比べものにならない素晴らしい音を聴くことが出来ます。おそらく、他のオーケストラの自主レーベルのクオリティを充分意識しての録音だったに違いありません。そのうちに、このクオリティをより高い次元で味わえるSACDを出してはくれないか、とは、誰しもが感じることでしょう。
そんな精緻な録音のせいなのか、あるいは、ユロフスキのバランス感覚の賜物なのか、ここからは、この超有名曲であっても初めて聴くような音色が頻繁に耳に入ってきます。チェレスタとかグロッケンといった打楽器系の音が、そんな代表、たとえば、フルートの旋律をなぞるというような、オーケストレーションの「隠し味」のような使われ方をするところでも、音が混ざらないでそれぞれの楽器として聴こえてきます。さらに、今までほとんど聴こえて来なかったような楽器がはっきり聴こえてくるので、これまで気づかなかったようなフレーズがあったことにも気付かされたりします。「天王星」でのコントラファゴットなどが、その好例でしょう。
ユロフスキの演奏は、リズムに対する感覚がきわめてシャープ、という印象を与えられるものでした。1曲目の「火星」は基本は5拍子という変拍子です。ここで注意したいのは、「5拍子」には、「(2+3)拍子」と「(3+2)拍子」の2種類がある、ということです。クラシックの場合は、たとえばチャイコフスキーの「悲愴」の第2楽章のように前者(2+3)のパターンがよく見られます。これはワルツのような3拍子とあまり変わらない感覚で、それほど違和感なく受け入れやすいものなのでしょう。しかし、これがジャズやロックになると、俄然(3+2)の曲が多くなってきます。ポール・デスモンドの作った有名な「Take Five」とか、ロイド・ウェッバーのロック・オペラ「Jesus Christ Superstar」の中の「Everything's Alright」というナンバーなどですね。そして、「火星」の場合は、この(3+2)という、どちらかというとクラシックにはなじまないビートが使われているのです。ですから、たいていの演奏は、その違和感が強調された、ちょっと鈍重なものになっているのではないでしょうか。
ところが、ユロフスキの「火星」は、このリズムを逆手にとって一気呵成に運んだ結果、全くクラシックとは異なる軽快なグルーヴを打ち出すことに成功しているのです。そこに現れたものは、まさにボーダーレスの、軽快でスマートな音楽でした。その5拍子に別の3拍子のフレーズが絡むとき、まるで近未来の風景のような(いや、見たことはありませんが)一切の無駄を排したような絵が、そこからは浮かんではこないでしょうか。
3曲目の「水星」も、リズム的には厄介な曲です。ここでは、早い3拍子が基本なのですが、それぞれ2拍ずつをつないで、倍の長さの3拍子のように聴かせる「ヘミオレ」という技法が頻繁に用いられます。そこから生まれるシンコペーションのグルーヴが、やはりユロフスキの場合はとても生き生きと感じられるのです。まるで、大瀧詠一の「君は天然色」みたいですね。
ただ、終曲の「海王星」にまで、そんなシャープさが及んでくるのは、ちょっと無理があるような気がしてしまいます。いかにも宇宙の果てしない広大さをあらわしたかのような神秘的な、言い換えれば不健康な音楽なのですから、こんなに健康的に演奏されてしまうとちょっと戸惑ってしまいます。それとも、これは、あの「冥王星」が「惑星」ではないことが判明したように、太陽系にはもはや神秘などひそんでいないという、やはり「近未来」的な発想が、ユロフスキにはあったためなのでしょうか。そういえば、「木星」の有名なテーマも、かなり前向きな趣を持ったものでしたね。

CD Artwork © London Philharmonic Orchestra Ltd
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by jurassic_oyaji | 2011-01-11 20:15 | オーケストラ | Comments(0)