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音楽で人は輝くー愛と対立のクラシック
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樋口裕一著
集英社刊(集英社新書
0577F
ISBN978-4-08-720577-0



クラシック音楽の「通」を自認する樋口さんの、最新作です。彼は、「通」が嵩じて、あのフランスのナントが発祥の地である「ラ・フォル・ジュルネ」の、なんと、アンバサダー(それが、どのような職種なのかは不明ですが)まで務めている、というのですから、すごいものです。その「ラ」(そんな略し方は・・・)の今年のテーマが後期ロマン派なのだとか、それで、そのタイアップなのでしょうか、この本ではそんな時代のクラシック音楽が、その時に活躍していた作曲家同士の「対立」と、「愛」を通して描かれています。これはなかなか面白い視点、まさに「通」ならではのお仕事ですね。
「対立」というのは、あまりにも有名なこの時代の音楽の2大潮流間の争いのことです。かたやワーグナーを代表とするいわば「標題音楽」の陣営と、かたやブラームスに代表される「絶対音楽」の陣営との、ほかの作曲家や評論家を巻き込んでの大論争について、その萌芽はベートーヴェンあたりからすでにあったのだ、という視点で、長いスパンにわたっての対立の様相がつぶさに語られます。この本で一つ特徴的なのは、それぞれの項目で一区切りついた時に、「ポイント」という段落が付いていることです。ここまでのお話の「まとめ」をやってくれるという、心憎いばかりの配慮です。本文をきちんと読んでいれば、そんなものは必要ないのでしょうが、なにかと忙しい現代人にとっては、あるいはここを読むだけで内容が分かってしまうという、とても親切な扱いですね。まさに「ハウツー本」の鑑。ただ、中にはあまりに要約してしまっているために、せっかく本文の中でていねいに語られていうことがほとんど伝わらない、という場合もあるので、注意が必要です。というか、そんな要約だったらそもそも必要ないのでは、と思ってしまうのですが、それが読者に対するサービスだという信念には、逆らうわけにはいきません。
ただ、なぜか最後の「新ウィーン楽派」についてだけは、この「ポイント」が付けられていないのが、気になります。本文が3ページもないので、ことさら要約することもないとの判断だったのでしょうが、それまでの潔い「言い切り」がここだけ読めないのはちょっとさびしい気もします。ただ、この件に関しての著者の文章は、それまでのものに比べるとなにか切れ味がありません。おそらく著者は、この、シェーンベルク一派に対してどのようなスタンスを取るべきか、正確には、どのようなスタンスを取れば、それまでの記述と整合性を持つことが出来るのか、という点に関してあまり自信が持てていないのではないか、という気がするのですが、どんなものでしょうか。少なくとも、「新ウィーン楽派の人々が始めた試みは、今なお続いているとみなすべきだろう」という認識は、あまりにも楽天的すぎます。
もう一つのテーマは「愛」ですね。ここに登場する作曲家たちが寄せた女性への想いの諸相が、まるで週刊誌のようなスキャンダラスさで語られるのは、なかなか興味深い試みです。作曲家に限らず、芸術に携わる者の創作のモチヴェーションが、女性(もちろん、男性も)によって大きく左右されるという真実を見事に描いています。
そして、巻末には、著者お勧めの後期ロマン派の名曲が紹介されています。作曲家の人となりとその作品の両面から迫るというこの周到な構成も、やはり著者の配慮の賜物でしょう。それでこその「アンバサダー」です。なにしろウェーベルンの「弦楽四重奏のための5つの断章」を「現代音楽が最後にたどり着いた地点」と言い切っているのですから、おのずとこの本の読者層は特定されてしまいます。これはそういうレベルの「配慮」が行き届いた「ハウツー本」、それ以上でもそれ以下でもありません。

Book Artwork © Shueisha
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by jurassic_oyaji | 2011-02-20 23:59 | 書籍 | Comments(0)