おやぢの部屋2
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SCHUBERT/Winterreise(A Cappella version by H. Chihara)
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里井宏次/
ザ・タロー・シンガーズ
EXTON/EXCL-00058



有名なシューベルトの連作歌曲「冬の旅」は、もちろん独唱者とピアノのための作品ですが、それを日本の超売れっ子合唱作曲家、千原英喜がア・カペラの混声合唱に編曲したバージョンの、世界初録音です。これは、全曲、ピアノパートまでもすべて合唱で演奏するというとてつもない企画です。
とは言っても、実はこの作品にはもっと「とてつもない」編曲があったことは、よく知られています。それは、ハンス・ツェンダーによるオーケストラ(というよりは、少し大きめのアンサンブル)のためのバージョンです。これは、ピアノ伴奏をそのままアンサンブルに移し替えるといったような生易しいものではなく、もっと積極的にピアノパート、あるいは曲そのものを拡大解釈して、大げさな描写を加えた、という代物です。アンサンブルには多くの打楽器が含まれるとともに、ギターやアコーディオンといった変わり種も入っていますから、その表現はハンパではありません(かなり変だ~)。1993年に作られたこのバージョンは、ツェンダー自身の指揮、ブロホヴィッツのソロの1994年の録音(RCA)と、カンブルランの指揮とプレガルディエンのソロの1999年の録音(KAIROS)という2種類のCDが出ていますので、興味のある方はぜひ。カンブルラン盤はこちらでも聴けます。
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KAIROS/0012002KAI


千原さんがこのア・カペラ・バージョンを作った時には、このツェンダーの仕事から多くの点で触発を受けたのは、まず間違いのないことでしょう。それはもちろん、全体のコンセプト、あるいは編曲に込められた「精神」のようなものを自らの作品にも取り込む、という、創造的な次元での話です。その上で、合唱ならではの表現を縦横に駆使する、といったあたりが、千原さんのオリジナリティの見せどころとなってくるわけです。
1曲目の「おやすみ」では、ピアノの前奏はいともまっとうな「合唱」として聴こえてきます。とりあえず、ツェンダーみたいな意味深な「前奏の前奏」みたいなものは入っていないのには安心しましょう。歌になってからも、ピアノの合いの手がごく自然に本来の歌のパートとからみ合って、立体的な音楽となっています。しかし、2曲目の「風見鶏」では、まず「ヒュー」という風の音がもろ具体的な描写として登場、ピアノ伴奏にも「ヒュルルル」という歌詞(?)が付きますので、イメージはさらに具体的に迫ってきます。途中ではなんと「コケコッコー」という鶏の鳴き声まで聴こえてきますから、それこそコンサートでのパフォーマンスとしてのウィットまで披露されていますよ。3曲目の「凍った涙」では、小さな拍子木で「キン」という、まさに凍りつくような音も加わりますし。
しかし、そんなちょっとユーモラスなテイストに油断していると、知らず知らずのうちにもっとどす黒いツェンダー的な世界へと引き込まれていくことに気が付くのが遅れてしまうかもしれません。有名な5曲目の「菩提樹」では、聴き覚えのある前奏の3連符のフレーズをあえて排したな、などと思っていると、いきなりシュプレッヒ・ゲザンクで「Komm her zu mir, Geselle」という「樹の呼びかけ」などが聴こえてくるのですからね。それからは、「本家」ツェンダーよりもある意味過激な表現なども交えて、楽しませてくれます。なんせ、最後の「辻音楽士」では、ハーディ・ガーディーのドローンが「ホーミー」なのですからね。ただ、その過激さもなにげに「草食系」なのは、やはり日本人ならではの細やかな情感の現れなのでしょうか。
タロー・シンガーズは、とても澄み切ったハーモニーで素晴らしい演奏を聴かせてくれていますが、ドイツ語の発音がやはりいまいちでした。これはかなりのマイナス。近々この楽譜が出版されるそうですので、ドイツの合唱団、RIASやシュトゥットガルトあたりの演奏で、ぜひ聴いてみたいものです。

CD Artwork © Exton Co., Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2011-03-02 19:56 | 合唱 | Comments(0)