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MOZART/Symphonies 39 & 41
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John Eliot Gardiner/
The English Baroque Soloists
SDG/SDG711




このCDのライナーノーツには、2つの興味深い点がありました。1つは、「曲目解説」を執筆しているのが、ダンカン・ドゥルースだという点です。「だれそれ?」と言われそうですが、この方はかつてモーツァルトの「レクイエム」の多くの修復稿の中で最も過激とされた、いわゆる「ドゥルース版」というものを作ったその人なのですよ。あの頃は、確かヴァイオリニストをやっていたはずですが、今ではこんなまっとうな「音楽学者」になっていたのですね。
そして、もう1点、ここには、普通はまずこういうところに顔を出すことはない「影の存在」であるレコーディング・プロデューサーの文章が載っていたのです。その人の名はイザベラ・デ・サバタ、名前から想像できるように、あの往年の大指揮者ヴィクトル・デ・サバタの孫娘です。というより、実はこの方はガーディナーの奥さん、以前はDGのプロデューサーをしていたのですが、企画されていたバッハのカンタータ全曲録音のプロジェクトをこの大レーベルが途中で投げ出してしまったために、DGを離れ、夫ガーディナーとともにこの「Soli Deo Gloria」というレーベルを立ち上げたのです。
ここで語られているのは、このCDが作られた顛末です。なんでも、エンジニアたちと話をしている時に、彼らはロック・バンドのコンサートを録音して、その日のうちにCDにしてお客さんに販売しているということを聞き、それをクラシックでも出来ないか、と考えたそうなのです。そこで、ガーディナーたちの「バンド」のツアーの最終日、2006年2月9日にロンドンのカドガン・ホールという、2004年に出来たばかりの中ホールで行われたコンサートの前半の2曲の交響曲のプログラムを、後半の「ハ短調ミサ」を演奏している間にCDにして、コンサートが終わった時にはお客さんの手元に渡るようにしたのです。その模様はテレビでも取り上げられて、結構大騒ぎになったそうですね。ま、今では日本でさえも、これはもはや珍しいことではなくなっていますが、最初にやった人は大変だった、ということなのでしょう。
つまり、今回のCDは、その時のものを普通の形でリリースしたものなのです。ですから、内容はその時の本番の演奏そのもの、ということになるのでしょうが、1曲目の「39番」のあとでは拍手がきれいにカットされていますから、何らかの編集は加えられているのでしょうね。
確かに、これは1度きりのコンサートの熱気を余すところなく伝えるものでした。中でも、「39番」の方は、お客さんを前にした演奏ならではの格別の味わいが、見事に発揮されたものに仕上がっています。ティンパニなどはまさにノリノリになって、いきいきとしたリズムで合奏を引っ張っていますしね。第2楽章あたりは、まさにその場で創られた、という、二度と同じものは再現出来ないような即興性にあふれたものです。テンポを遅めにとり、それをフレーズごとに微妙に動かすという絶妙の表情づけからは、とても奥深い世界が生まれています。第3楽章のトリオでは、クラリネットとフルートの掛け合いで、ちょっとした「事故」が起きていましたね。繰り返しでは最初に出てくるクラリネットが装飾をつけて、それをフルートが受ける、という段取りだったのでしょうが、前半ではなぜかクラリネットが普通に吹いたので、それに対応できなかったフルートだけが装飾をつける、という間抜けなことになっています。しかし、後半では、そのクラリネットは今度こそは、と、過剰すぎるほどの装飾をつけていましたね。なかなかほほえましい光景です。
しかし、「41番」では、なにか全体に重っ苦しく、あまり楽しんで演奏しているようには感じられませんでした。フィナーレなどは勢いだけで突っ走っていて、アンサンブルは完全に破綻していましたし。曲はハ短調ではなく、ハ長調なんですがね。まあそれも、「お土産」ならではのご愛嬌でしょう。

CD Artwork © Monteverdi Productions Ltd
by jurassic_oyaji | 2011-03-05 08:00 | オーケストラ | Comments(0)