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WAGNER/Tristan und Isolde, An Orchestral Passion
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Neeme Järvi/
Royal Scotish National Orchestra
CHANDOS/CHSA 5087(hybrid SACD)




だいぶ前にご紹介したワーグナーの「リング」を素材にしたオーケストラのための組曲An Orchestral Adventureの続編、今回は「トリスタン」が元ネタの「An Orchestral Passion」なんですって。編曲は同じデ・ヴリーガー、もちろん、ヤルヴィ指揮のロイヤル・スコティッシュ・ナショナル管弦楽団の演奏です。
前作は、編曲も演奏もとてもひどいものでした。それなのになぜまた買ってしまったかというと、それは、まず聴く機会のないワーグナーの初期の作品の序曲がカップリングされていたからです。ワーグナーは、現在のオペラハウスのレパートリーに入っている「リエンツィ」を作曲する前に、3曲のオペラを作っていました。最初の「婚礼」は途中で作るのをやめてしまった未完のオペラですが、そのあとの「妖精」(1834年)という無理難題を押しつけるわがままな恋人が主人公のオペラ(それは「要請」)と、「恋愛禁制」(1836年)という、愛し合うには釣り合いが取れていなければダメだよ(それは「恋愛均整」)というお話(どちらもウソですからね)は、何度か実際に上演されています。
初めて聴いた2つの序曲は、なかなか興味深いものでした。「妖精」の序曲は、あくまでドイツオペラの伝統にのっとったウェーバー風の作品ですが、そこに登場するフレーズは後のワーグナーの作品に登場する数々のテーマと共通したキャラクターを持ったものでした。「タンホイザー」あたりの官能的なメロディによく似ていますね。ただ、やたらとしつこく同じことを繰り返すのが気になります。自分の感情を、押さえきれずにそのままベタに並べ立てた、そんな感じでしょうか。
一方の「恋愛禁制」序曲は、なんともワーグナーらしくない曲であるのに驚かされます。信じられないことですが、なんでも文献によると、この作品ではあえてドイツ的なものに背いて、イタリアやフランスの様式を追求したのだというのですね。確かに、これはいかにも軽やかな、そう、まるでニコライとかレハールあたりのオペレッタの序曲のような明るさに支配されているのですね。ピッコロが常に最高音域を飾っているというオーケストレーションが、さらに華やかさを際立てています。若気の至りでしょうか、ワーグナーはこんなこともやっていたのですね。
さて、メインプログラムの「トリスタン」です。こちらは4時間はかかるオリジナルをたった50分に縮めたというとんでもないダイジェスト版。第1幕は前奏曲だけで、残りは全てカット、第2幕が25分、第3幕が20分というのが、その内訳です。確かに、必要なテーマは取りそろえているという感じはしますが、やはりこの曲をオケだけで聴かせようというのはそもそも無理な話だということを再確認したにとどまるものでしかありませんでした。それと、前作でも気になった、編曲者の「つなぎ」の唐突さが、やはりここでも解消されることはありませんでした。最後の「愛の死」が出てくる直前に、導入のような扱いでそのテーマを何度か繰り返す、というやり方が、なんかとても安っぽく感じられてしまうのです。確かに、本編でもこのテーマは一つ前のシーンで同じように出てきますが、それはここのようなあからさまな現れ方ではありませんし、その間にはしっかり別のシーンが入っていますから、きちんと伏線としての意味があったのですよね。
そして、やはりヤルヴィの指揮はワーグナー好きにはなんとも耐えられないものでした。なぜ彼は、これほど性急に音楽を運ぼうとしているのでしょう。作曲家がテーマに込めた意味をしっかり味わってから次に移りたいと思っているのに、この指揮者はそれを許さないのですね。ですから、聴いていてどんどん不満が蓄積していくという、最悪のスパイラルを招いているのです。
実は、この前には「パルジファル」も録音していたんですね。それは「An Orchestral Quest」ですって。そんなもの、誰が聴くもんですか。

SACD Artwork © Chandos Records Ltd
by jurassic_oyaji | 2011-03-07 20:21 | オーケストラ | Comments(0)