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BLOCH/Works for Male Soprano, Rare Instruments and Orchestra
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Jörg Waschinski(Male Sop)
Thomas Bloch(Rare Inst)
Fernand Quattrocchi/
Paderewski Philharmonic Orchestra
NAXOS/8.572489




トマ・ブロシュというミュージシャンは、オンド・マルトノ奏者として一度こちらでご紹介していましたね。そのアルバムの中でも自作を取り上げていましたが、今回は全て自らの作品という意欲作です。以前のアルバムのテイストからもすでに感じられていましたが、今回のライナーによって明らかになったように、1962年生まれのブロシュのルーツは「作曲家」ジョン・ケージやクセナキスなどから始まって、ロック・ミュージシャンにまで及んでいたのですね。
そんな背景を持ったブロシュが作った曲が、どのあたりのスタイルに集結しているのか、まずはアルバム中最も大きな作品である「Missa Cantate」で聴きとってみましょうか。これは、フル・オーケストラをバックに男声ソプラノが歌うという、編成的にも大きなものになっています。ただ、オーケストレーションはブロシュではなく、別の人が行っています。全部で10の部分から成るこの作品は、タイトルの通り「ミサ」の通常文の他に「レクイエム」などに使われているテキストや「Alleluia」などといった楽章もあって、ごった煮の感じ、そんなところを「カンタータ」と表しているのでしょうか。分厚い弦楽器で始まるこの曲のテイストは、まさにペルトやタヴナーといった、現代の宗教曲のメインストリームそのものでした。ソリストの歌う抑揚の少ないフレーズを、オーケストラの豊かな響きが包み込む、といった趣ですね。ただ、6曲目の「Sanctus-Benedictus」あたりが、かなりメロディアスな性格を持っているあたりが、ブロシュのアイデンティティなのかもしれません。しかし、正直この作品はオーケストレーションがかったるく、途中で眠くなってしまいますね。ちなみに、この曲はオーケストラだけ先に録音して、ソプラノ・ソロはその1年後に別のところで録音されています。このソロと、そのあとのブロシュ自身の演奏は、なんとブロシュその人が録音まで担当していますよ。自作自演+自録でしょうか。忙しくて死ぬ思いでしょうね(それは「地獄」)。
後半は、そんな「家内生産」で作られたもの、そこでは、ブロシュが演奏したさまざまな「楽器」も、さらにソプラノ・ソロさえも、多重録音によって何声部もの多くのパートを形成しています。
まず、「Sancta Maria」では、その2人の他にヴィオラが加わります。ヴィオラのピチカートで始まるこの曲は、かなりきっちり作られているような感じ、その間にブロシュのグラスハーモニカのきらめきと、多くのヴォーカル・パートが彩りを添えています。もしかしたら、ブロシュ自身もヴォーカルで加わっているのかもしれませんね。
次の「Cold Songs」では、一応ヴォーカルは7声部となっていますが、歌詞のないヴォカリーズなので、楽器と一体化して聴き分けられないほどです。その「楽器」ですが、「クリスタル・バシェット」(左)とか「ウォーターフォン」(右)といった、奇妙な楽器は、いったいどれがどんな音を出しているのか、さらに生音なのか変調を加えられているのかも定かではありません。
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音楽も、果たしてきちんと楽譜に書かれたものなのか、あるいはそれこそジョン・ケージのような偶然性にゆだねられたものなのかも、聴いただけでは分からないという怪しさです。まあ、現代によみがえったケージの精神だな、と思うことにしましょうか。
最後の「Christ Hall Blues」という曲は、まるでバロック・オペラのアリアのように、レシタティーヴォとアリアに別れています。ここに来て、ソリストのワシンスキの、まさに「現代のカストラート」とも言える華麗な「ソプラノ」を堪能することが出来ることでしょう。ほんと、オトコにしておくのはもったいないほどの美しい声ですね。この曲で、初めてブロシュの本来の楽器であるオンド・マルトノが登場するのも、それまでの経過からなにか感動的な思いに浸れてしまいます。

CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.
by jurassic_oyaji | 2011-04-02 20:05 | 現代音楽 | Comments(0)