おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/Symphony No.5, BLACKWOOD/Symphony No.1
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Charles Munch/
Boston Symphony Orchestra
ALTUS/ALT102




今でこそ、FMラジオでステレオ放送を聴くのは当たり前のことになっていますが、AM放送しかなかった頃には、そんなことはとても無理な話でした。音質からして、高音も低音もカットされた貧しいものでしたし、ノイズはひっきりなしに入りますから、とてもステレオどころではありません。しかし、レコードでステレオ録音のものが出回ってくれば、ラジオでもそんなことをやってみようという人も現れてきます。なにしろ、当時はステレオのレコードを再生する装置はかなり高額でしたから、どの家庭にでもあるラジオを使ってステレオが体験できるのであれば、それは素晴らしいことだったのでしょう。そこで、「第1」と「第2」という2つのチャンネルを持っていたNHKは、それぞれに左右の信号を振り分けて同時に放送するということで、そんな「AMラジオによるステレオ放送」を実現させのです。ただ、普通は同じラジオを2台持っている家庭はありませんから、右と左ではかなり音質が違っていたはず、それは「立体音楽堂」というタイトルでしたが、いったいどんなステレオだったのでしょうね。
そんな番組のソースとして、NHKが招聘したミュンシュ指揮のボストン交響楽団の日本公演のライブ録音が残っていました。半世紀前にノイズの彼方から異様なバランスで聴こえてきた音が、とても素晴らしい音でCDとしてよみがえりました。なんせ「32bit」という、未だかつて体験したことのないビットレートでマスタリングが行われているのですからね。
1960年に来日、1ヶ月にわたって日本全国でツアーを行ったボストン交響楽団の、5月22日の日比谷公会堂(なぜか、ブックレットでは「5月5日」と表記されています)の「実況録音」の模様が全て収められているのが、このCDです。当日のプログラムは、ベートーヴェンの5番、アメリカの「若手」作曲家、アースレイ・ブラックウッドの交響曲第1番、そしてワーグナーの「マイスタージンガー前奏曲(+α)」が全て、それにアンコールを加えても、正味1時間ちょっとしかかかっていません。この頃のコンサートは、ずいぶん短かったのですね。
最初の「運命」でミュンシュは繰り返しを全て省いているのも、こんなに短くなっている要因なのでしょう。例えば、楽譜では第1楽章の第2主題冒頭のホルンのテーマは、提示部ではホルンで演奏されたものが展開部ではファゴットに変わっているところも、あえてホルンで吹かせるといった「あの頃」の慣習に見られるように、これはとても懐かしい様式の演奏です。その分、今ではとてもお目にかかれないような濃厚で迫力に満ちた仕上がりとなっています。特に第4楽章に入ってからの煽りにはものすごいものがあり、最後のアコードが打ち鳴らされた瞬間に盛大な拍手が起こるという、あの頃のお行儀の良い演奏会にしては珍しい「事件」があったことも、しっかり記録されています。ある意味、この「拍手のフライング」こそが、このCDの最大の聴きどころかも知れません。
次の曲の作曲家、ブラックウッドという人は、今では完全に忘れ去られていますが、当時はまだ26歳の未来を嘱望された作曲家でした。メシアンとヒンデミットに師事したということですが、この4楽章形式の交響曲は、もろにヒンデミットの影響が見られて、最初のうちは正直退屈な作品のように感じられました。ところが、最後の楽章になったら、そんなヒンデミットのエピゴーネンは姿を消し、とてもしっとりとした静謐な世界が広がっていたので、ちょっとびっくりです。この楽章だけは、今でも充分に鑑賞に耐えうるもの、逆にそれが当時は受け入れられずに、以後のキャリアがストップしたのでは、などと思ってしまいます。本当に静かにエンディングを迎えるため、今度はなかなか拍手が起こらないのが面白いところです。この日の聴衆はとても正直だったのでしょうね。

CD Artwork © Tomei Electronics "Altus Music"
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by jurassic_oyaji | 2011-04-17 23:24 | オーケストラ | Comments(0)