Soloists
Bertrand de Billy/
Wiener Singakademie, Wiener Sängerknaben
Slowakischer Philharmonischer Chor
ORF Radio-Symphonie-Orchester Wien
OEHMS/OC 768
かつて、
BMG(今ではソニー・ミュージック)傘下の「
ARTE NOVA」という廉価レーベルを主宰していたディーター・エームスが、
BMGから離れて一本立ち、自らの名を冠したレーベルを立ち上げたのは、
2003年2月のことでした。
ARTE NOVAというレーベルはそのまま
BMGに残し、新たに主だったアーティスト(なんと言っても目玉はスクロバチェフスキでしょう)の音源を引き連れて「
OEHMS」というレーベルを作ったのですから、
BMGにしてみれば身内の造反ですね。当然、それまでの
BMG経由の販路は絶たれるはずだと思っていたのですが、なぜか日本国内では
BMGの日本法人からのディストリビューションがそのまま続いていました。担当者との間に個人的なコネでもあったのでしょうか。しかし、
2008年8月にBMGがソニーに吸収されてしまうと、おそらくその「担当者」もリストラに遭うかなんかしたのでしょうか(あくまで根拠のない「憶測」ですが)、そんな甘い関係は次第に通用しなくなり、
2010年の終わりごろから数か月ほどこのレーベルの新譜が国内ではリリースされない状態が続いていました。しかし、
2011年の4月ごろになると、今までにはなかった国内制作の「帯」が付いたものが店頭に並ぶようになりました。そこに記載された発売元は「ナクソス・ジャパン」、うーん、これは・・・。まあ、以前から「
NML」のレパートリーだったのですから、
ヤクソクはされていたのでしょう。
ベルトラント・ド・ビリーも、かつては
ARTE NOVAにオペラのレパートリーで貢献していたアーティストでした。それが今では、こんな大曲で
OEHMSの看板をしょって立つようになっています。
これは、
2010年の3月にウィーンのコンツェルトハウスで行われたウィーン放送交響楽団のコンサートのライブ録音です。デニス・ラッセル・デイヴィスの後を受けて
2002年にこのオーケストラの首席指揮者に就任したド・ビリーは、このシーズンを最後にそのポストを若手(
1980年生まれ)のコルネリウス・マイスターに譲っていますが、このコンサートはその最終シーズンを飾ったマーラー・ツィクルスの総決算と位置づけられていたそうです。本来、
CDにする予定などはなく、彼らのいつものコンサートのようにそれは
ORFで放送されるためだけの目的で録音されていたのですが、あまりのクオリティの高さに急遽
CDリリースが決まったという、いわくつきのものなのです。
コンサートは3月の
25日と
27日に行われていますが、ブックレットのデータを信じれば、これは
27日の本番をそのまま録音したもので、この手の「ライブ」録音ではありがちな、ミスした部分を他のテイク(
25日の録音など)を使って差し替えたというようなことはやっていないようですね。確かに、細かいところでのアンサンブルの乱れはかなり見受けられますが、それを補ってもあまりあるテンションの高さが、この演奏にはあったのでしょう。
なによりも素晴らしいのは、とても放送局が行ったとは思えないような、解像度が高くメリハリの利いた録音です。これだけの大編成にもかかわらず、全体のクリアな響きといったらどうでしょう。特に、合唱の存在感は、演奏自体も素晴らしくひときわ抜きんでていますし、ヘタをしたらその合唱や金管楽器に埋もれてしまいそうな弦楽器も、常に艶やかな音色を主張しています。さらに、最後近くに登場する高いところから聴こえてくるソプラノ・ソロや、金管楽器のバンダの距離感も、見事に立体的に再現されています。
CDでこれだけのクオリティなのですから、
SACDだったとしたらどれほどのものだったことでしょう。
ただ、熱気あふれる演奏であるのは分かりますが、歌手たちがあまりに張り切り過ぎていたために、精度が欠けていたのが耳障りでした。テノールのヨハン・ボータなどは、こんな暑苦しい歌い方をしないで、もっと楽にその美声を届かせる力があったはずなのに。
CD Artwork © OehmsClassics Musikproduktion GmbH