おやぢの部屋2
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A Song without Words/The Legacy of Paul Taffanel
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Kenneth Smith(Fl)
Paul Rhodes(Pf)
DIVINE ART/dda 21371




この前ランパルの「フルートとハープのための協奏曲」を聴いていたら、無性にケネス・スミスがシノポリをバックに同じ曲を演奏しているあの爽やかなCDを聴きたくなりました。しかし、いくら探してみても見つかりません。もしかして持っていなかったのかも。いや、このCD昔のリストでも紹介していますから、そんなはずはありません。買ってなかったものを取り上げるなんて、いまだかつてなかったことですからね。きっと誰かに貸して、それが返ってこないだけのことなのでしょう。
そのモーツァルトでももちろん共演していたフィルハーモニア管弦楽団の首席フルート奏者を30年近く務めていたスミスですが、このたびついに定年を迎えたようで、サイトを見てみるともはやこのオーケストラのメンバー表に彼の名前はありません。ゴールウェイが在籍していた頃のベルリン・フィルのように、フルーティストの魅力だけでどんなものでも聴きたくなるほどの気持ちにさせられたオーケストラは、これでなくなってしまいました。
それほどまでに、ほとんど無条件で酔いしれることのできるスミスの演奏は、ソロアルバムでも聴くことは出来ます。ただ、最近DIVINE ARTから出ていたものは、かなり以前に録音されたものがほとんどだったので、ちょっと物足りないところがあったのですが、そこに、なんと2008年から2009年にかけて録音されたアルバムが登場しました。しかも、3枚組で。これは、なににも代えがたい贈り物です。
その、総勢21人の作曲家によるフルート独奏曲が集められた、トータルで4時間近くにもなろうという膨大なアンソロジーは、サブタイトルに「ポール・タファネルの遺産」とあるように、この偉大な作曲家/フルーティスト/教育者が、自らのリサイタルで取り上げた作品や、彼のために委嘱された作品などのオンパレードです(ちなみに、メインタイトルはタファネルの編曲によるメンデルスゾーンの「無言歌」のことです)。そこには、かなりの数が、これが初めて録音されたものであるというコメントはあるものの、それはどの曲がそうなのかといったような些細なことまでは踏み込まない慎ましさを持ったものでした。
聴き慣れた曲、例えばライネッケの「ウンディーヌ」やフォーレの「ファンタジー」、あるいはドップラーの「ハンガリー田園幻想曲」などは、いかにもスミスらしい節度にあふれた、それでいて他のフルーティストからは味わえない「隠し味」を秘めたものでした。何よりも、その澄みきった音色は、とことん魅力的です。
そして、アルバムの大半を占める全く初体験の作品との出会いです。クレマンス・ド・グランヴァルとかシャルル・ルフェーブルとか、そもそも名前すら聴いたこともない作曲家の作品は、まさにこの時代のこの分野に、まだまだ知らない名作の沃野が広がっていることを教えてくれています。「カルメン幻想曲」1曲だけで有名になってしまい、他の作品は全く顧みられることのないフランソワ・ボルヌにも、こんなチャーミングな曲があったなんて。ヴァレーズの「デンシティ21.5」を献呈されたことでのみ知られているフルーティストのジョルジュ・バレールは、実は作曲家でもあったんですね。
そんな、すべての作品が慈しみをもって味わえたのは、間違いなくここでスミスが演奏してくれたおかげでしょう。彼が曲に込めた愛情がそのまま聴き手に伝わるという卓越した音楽性を備えていたからこそ、一歩間違えばフルート仲間にしか通用しない退屈なリサイタル・ピースとしか受け取られかねない(誰とは言いませんが、つい最近そんなCDを聴いたばかりです)これらの曲たちが、確かな「音楽」としての豊穣を見せてくれたのです。
写真を見ると、スミスは相棒のピアニスト、ポール・ローズともども、すっかり「おじいさん」になってしまいましたが、まだまだその味わいは衰えてはいません。

CD Artwork © Divine Art Record Company
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by jurassic_oyaji | 2011-05-17 23:44 | フルート | Comments(0)