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貧困社会から生まれた奇跡の指揮者 グスターヴォ・ドゥダメルとベネズエラの挑戦
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山田真一著
ヤマハミュージックメディア刊
ISBN978-4-636-86424-3



毎年元旦に行われるウィーン・フィルの「ニューイヤー・コンサート」は、その映像が世界中に生中継され、もちろん日本でもリアルタイムで見ることができるという、まさにクラシック界を代表する大イベントですね。そこに登場する指揮者は、したがって世界中からクラシック・ファンに限らず注目を浴びることになります。小澤征爾が指揮をした時などは、ほとんどパニック状態、CDは空前の売り上げを記録しましたね。
ウィーン・フィルのライバル、ベルリン・フィルも、負けじとその前日の大晦日には「ジルヴェスター・コンサート」で盛り上がります。こちらは最近は生中継というわけにはいかないようで、「ニューイヤー」に比べたらやや地味な露出ですが、やはり全世界から注目されていることに変わりはありません。ただ、指揮者に関しては、毎年ラトルに決まっているような感じだったので新鮮味はないな、と思っていたら、なんと今回指揮台に登ったのはグスターヴォ・ドゥダメルだったではありませんか。これは、毎年ベルリン・フィルの芸術監督の役目だったはず、確かに彼はイエテボリとLAという2つのオケのシェフというポストは獲得していましたが、さらにベルリン・フィルの次期芸術監督か、と思わせられるほどのこの扱いには、ちょっと驚いてしまいました。
この本では、今やベルリン・フィルからもそれほどの格別な待遇で迎えられるようになってしまったドゥダメルについて、ほとんど彼の「追っかけ」と化している著者によって、プロの指揮者としてのデビューから今日までの彼の動向が、事細かに語られています。その中で、実際に彼のリハーサルなどにも立ち会っているという著者のドゥダメルの評価は、うなずかされることばかりです。特に、彼には、海千山千のオーケストラのプレーヤーを納得させるだけのオーラが、確かに存在していることを知ることによって、決して、ただのアイドルではない、間違いなく大指揮者に成りうるだけの才能を持ち合わせていることを確認です。
それにしても、彼を産んだベネズエラという国と、そこでおこなわれている「システマ」という音楽教育システムに関する著者の指摘には、考えさせられることだらけです。そもそも、最初にドゥダメルに出会ったCDに掲載されていたコメントによって、この教育システムはあくまですさんだ子供たちを救うための更正プログラムであって、プロの音楽家を育てるものではない、という印象を植え付けられてしまっていたものですから、そこから「シモン・ボリバル」のような素晴らしいオーケストラや、ドゥダメルのような指揮者が出てきたのが、不思議でしょうがなかったのですよ。著者は、その件について「誤解や曲解」だと言い切っています。そして、このシステムの真の姿、音楽家を目指す子供たちが、小さい頃からしっかりしたレッスンを受け、その結果が「シモン・ボリバル」なのだ、と熱く語っています。ある意味、この部分が、この著書で最も重要な訴えなのではなかったのでしょうか。なにしろ、彼らが来日した時の記者会見では、マスコミ関係者は一様にそんな「誤解」をもっていたそうですからね。「たいやきくん」とのつながりとかね(それは「シモン・マサト」)。
後半では、ドゥダメルのことからは離れて、もっぱらこのシステムの別の成果が語られています。例えば、史上最年少でベルリン・フィルへの入団を果たしたコントラバス奏者エディクソン・ルイースのことなども、そのような「真の姿」を知ったからこそ、納得が出来るものとなるのです。それにしても、世界的な音楽家を産み出すのと同時に、しっかり音楽を通しての「更正」活動も行っているというのですから、このシステムの裾野の広さには、驚かされることばかりです。

Book Artwork © Yamaha Music Media Corporation
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by jurassic_oyaji | 2011-05-19 19:42 | 書籍 | Comments(0)