おやぢの部屋2
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Beauty of the Baroque
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Danielle de Niese(Sop)
Andreas Scholl(CT)
Harry Bicket/
The English Concert
DECCA/478 2260




今や、世界中のオペラハウスから引っ張り凧となっているダニエル・デ・ニースの、3枚目となるDECCAからのソロアルバムです。これまではヘンデル、モーツァルトときていましたが、ここでは「バロックの美しさ」というタイトルで、ダウランドからバッハまでをカバーしている幅広い選曲となりました。バックを支えるのも、クリスティ、マッケラスのあとは、やはりこの時代の音楽のスペシャリスト、ハリー・ビケット率いるイングリッシュ・コンサートです。イギリスのティータイムには欠かせません(それは「ビスケット」)。
とは言っても、最初はバンドではなくリュート1本の伴奏で、ダウランドのリュート歌曲が始まります。有名な「Come again」など、カークビーあたりのしっとりとした歌い方に慣れてしまっていると、ちょっとした戸惑いを覚えるほど、それはエスプレッシーヴォに満ちたものでした。なによりも、彼女の最大の特徴である豊かな色彩感が、とてもインパクトを持って迫ってきます。歌われている英語も、なんとリアリティを持って届くことでしょう。これは、別に深刻ぶって歌うような曲ではなかったのですね。そう、これはまさに彼女ならではの、個性あふれるダウランド、なんだか目から鱗が落ちるような思いです。
続いて、ヘンデルの定番、「Ombra mai fu」が歌われます。キャスリーン・バトルによってべったりと手垢が付けられてしまったこの曲、デ・ニースは基本的にはそんな路線に沿っているかに見えますが、その歌の中にはもっと直接的に訴えるものが込められていると感じられるのはなぜなのでしょう。それは、おそらくヘンデルの様式感をしっかり踏まえた上での自由な表現がもたらすものなのかも知れません。このアルバムではヘンデルが5曲も歌われていますが、そのどれもがコロラトゥーラのスキルも含めて、しっかりとヘンデルらしさを、情感たっぷりに聴かせてくれるものでした。
パーセルの「ディドの死」なども、彼女が歌うとその悲しみが等身大のものに思えてくるから不思議です。息づかい一つとってみても、そこには間違いなく共感を呼ばずにはおかない心情が表現されています。
今回はゲストとして、カウンター・テノールのアンドレアス・ショルが加わっています。彼とのデュエットが聴かれるのは、まずモンテヴェルディの「ポッペアの戴冠」から「Pur ti miro」。ショルの芸風はそんなに堅苦しいものではないと思っていたのですが、こうしてデ・ニースと一緒に歌っていると、やはり弾け方が違うな、という気になってきます。もう1曲、ペルゴレージの「スターバト・マーテル」でも、その印象は変わりません。この二人は同じフィールドの歌い手としてとらえるべきなのでしょうが、デ・ニースが時折見せる肉感的な表情には、やはりショルとは違う世界が感じられてしまいます。
最後には、バッハが登場します。「結婚カンタータBWV202」と「狩りのカンタータBWV208」という有名な世俗カンタータから2曲のアリアです。ここで彼女が、同じバッハでも宗教曲や教会カンタータを選ばなかったのは、賢明なことでした。確かに彼女はバロックの様式はしっかり身につけているのですが、それは主にオペラにおける表現様式、オペラとは無縁のバッハの音楽では、ギリギリの所で逸脱しかねない危なさを秘めています。ですから、ここで演奏されているものあたりが、かろうじて彼女の資質で歌える限界のような気がします。ヘンデルとバッハは並んで語られることの多い作曲家同士ですが、実は根本は全く別のものを目指していたことが、デ・ニースの歌を聴くことによってはからずも明らかになっているのではないでしょうか。
SACDを聴き慣れていると、この録音はなにか平板なものに感じられてしまいます。ソプラノ・ソロや、特にトランペット・ソロなどは、SACDであればもっと浮き出して聴こえてくるはずです。

CD Artwork © Decca Music Group Limited
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by jurassic_oyaji | 2011-06-26 23:21 | オペラ | Comments(0)