おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
CRAS/Quintette pour flûte, harpe et cordes
CRAS/Quintette pour flûte, harpe et cordes_c0039487_22562839.jpg
Juliette Hurel(fl)
Marie-Pierre Langlamet(Hp)
Philille Graffin(Vn)
Miguel da Silva(Va)
Henri Demarquette(Vc)
TIMPANI/1C1179




以前合唱曲でご紹介したフランス、ブルターニュの作曲家、ジャン・クラのフルートをメインにした室内楽を集めたアルバムです。レーベルはもちろん、いまやクラのオーソリティとなった感のあるTIMPANIです。
クラシック・ファンの間では「クラ」という表記が定着しているようですが、本当は「クラーズ」という殺虫剤(それは「ハエコナーズ」…似てない)のような呼び方の方が正しいのだそうですね。まあ、そんなことを言われてもねぇ。なにしろ、いくら「ドヴォルジャーク」が正しいと言っても「ドボルザーク」はなくなりませんし、吉田ヒデカズ先生のようなえらい方が「フォーレではなくフォレだ」とおっしゃっているにもかかわらず、巷で「フォレのレクイエム」を見かけることはありません。それがクラシック・ファンというものなのですよ。
クラという人は、作曲家としてだけではなく、軍人としてもかなり高い地位にあった人でした。それだけではなく、科学技術の方面でも今に残る功績があるというのですから、すごいものです。このCDのブックレットには、彼が船室の中でピアノを弾いている写真がありますが、それはまさに彼のステイタスを象徴するもののように見えます。軍艦の中の広々とした自分専用の船室の中にグランドピアノを持ち込み、それを軍服姿で弾いている姿には、ちょっと不思議なものを見ているような気にさせられてしまいます。その写真には、アフリカの民族楽器のようなものも一緒に写っています。彼が任務で赴いた異国の地では、彼は軍人としてだけではなく、音楽家としても様々なものを吸収したのでしょうね。たしかに、彼の作品の中にはそんな非ヨーロッパのコンテンツは頻繁に聴くことが出来ます。
このアルバム、メインの五重奏曲の前に、その5人のメンバーがそれぞれ別のアンサンブルを組んで演奏する、という工夫が見られます。その最初に入っている弦楽三重奏曲が、そんな多くの要素が満載の、とても楽しい曲でした。ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロという、ちょっと安定感を欠く不思議な編成なのですが、それを逆手にとって生み出した緊張感も、なかなかのものです。全体の構成は古典的、というよりはさらに古風なバロックあたりの雅ささえも漂わせているものです。そんな中に、いきなりジプシー風のスケールが登場する第2楽章などは、バロックの時代に唐突にポリコードが登場するというショッキングな世界が広がって、思わず聴きいってしまいます。第3楽章では、今度は中国風の音階が、ポルタメントがかかったピチカートで演奏されますから、なんともおどけた感じが小気味よいものです。フィナーレは6/8のタランテラで、アイルランドのリバーダンス風に迫るかと思えば、中間部では一転、リズムがヘミオレに変わって中国テイストのテーマになるという楽しさです。
次は、ハープのソロ。ドビュッシー風のたゆとうような全音音階によるレントが、切れ目なく技巧的なアニメにつながるという爽快な造りですが、後半がもはやハープという楽器の能力の限界を超えているようなすさまじさを見せています。これは、演奏しているベルリン・フィルの首席奏者、ラングラメの技巧をもってしても克服は出来ないものなのでしょう。
そして、まずはハープとのデュオというスタイルで、フルートのユレルの登場です。それこそバロックの舞曲を集めたような組曲、ひたすら粋な軽さを示して欲しいところなのですが、ユレルの演奏がなにか重苦しいのが気になります。音程も少し暗めですし。ですから、全員が揃った、最後の五重奏曲は、ドビュッシーのソナタ(フルート、ハープ、ヴィオラ)を下敷きにしていながら、時折さらに自由度を増したヴァラエティは感じられるものの、フルートがあまりに沈んでいるために本来の美しさが出きっていないもどかしさが、ちょっと惜しまれます。

CD Artwork © Timpani
by jurassic_oyaji | 2011-07-26 22:57 | フルート | Comments(0)