おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
CDでわかるクラシック入門
c0039487_22224698.jpg






広上淳一監修
ナツメ社刊
ISBN978-4-8163-5030-6



同じ「クラシック入門」というタイトルが付いていても、前回のものとは比べ物にならないほどの手間がかけられ、その結果しっかり熱意が感じられるものに仕上がった「クラシック本」ではないでしょうか。というより、そもそもこの本が想定している対象は、あんな十把ひとからげな読者ではなく、ある程度クラシックをきちんと聴いてみようという人たちのはず、なんと言ってもいい加減なことは許されない世界なのですからね。
そのために制作者(こういう本の常として、実際に原稿を書いたりレイアウトを決めたりという、最も重要な仕事を担っている人たちの名前は表紙に掲げられることはなく、巻末に小さな文字で記されるだけです)たちは、様々な工夫を凝らしてコアな読者の好奇心を満足させようとしています。なんと言っても扱う対照が「音」なものですから、それを紙の上で表現するのは極めて難しいのは分かり切っています。そこで彼らは、極力テキストではなくビジュアルなツールを駆使して訴えかけようとしています。そのためには、音楽伝達の根源的な形である「楽譜」を多用することも厭いません。おそらく、今の時代、楽譜を読むことにそれほど苦労を感じない人が増えているという感触が、彼らにそうさせたポテンシャルだったのでしょう。
さらに、独特の図表を考案して、なんとか「音楽」を楽譜とは別の形で視覚化しようという努力には、頭が下がります。ラヴェルの「ボレロ」全曲を、たった1ページの升目だけで表現するなんて、すごすぎます。同じ「オペラ」でも、ワーグナーとヴェルディとではこれだけ違っているのだ、ということも、なんとも小気味よい図形で語り切っていますからね。
そのような体裁を使って、まずはベートーヴェンの「運命」の詳細なアナリーゼを行います。本当だったらかなり面倒くさいはずの和声とか楽式が、これほどすんなりと(いや、実は一部には図の意味を理解するためにちょっと苦労しなければならないところもありますが、ある程度「クセ」が呑み込めてしまえば、あとは楽になるはずです)頭に入ってしまえるのは、殆ど奇跡です。少なくとも学校で教わる「音楽の授業」よりははるかに分かりやすいことでしょう。
そして、さらに一歩進んで、同じ音楽が演奏家によって異なったものになるという、クラシックならではの醍醐味を生む秘密も、ここでは解き明かされます。かなりマニアックなことも知ることが出来ますから、これは真のクラシック・ファンたるためには欠かせない知識です。
そこで、「監修者」の広上さんの登場です。ここで注意しなければいけないのは、この本の中でとてもかわいらしいイラストで描かれている豊かな御髪をたたえた広上さんのお姿は、決して彼の現在の実像を反映したものではない、ということです。先日テレビで、3人の指揮者がそれぞれに秘密を披露するというとんでもない番組が放送されましたが、その時に拝見した広上さんは、ほぼスキンヘッドに近い状態だったのです。この本の99ページの写真あたりが、最もそれに近いお姿でしょうか。
その広上さんは、マニアックな本文とは対照的に、いとも情緒的なお話を綴られています。中でも「真摯に努力をすれば、無名音大出身でも世界的な指揮者にはなれる」という一言は、胸を打ちます。
そんな労作ですが、巻頭のカラーページでいきなり不可解なイラストが現れるのが、残念です。「運命」で使われた楽器を、初演当時と現代とを比較したものなのですが、ホルンやトランペット、ティンパニなどをピリオド楽器にしたのに、チェロだけがエンドピンのあるモダン楽器になっていますし、いくらカラヤンが「倍管」にしたからと言って、ピッコロまで2本使うことはあり得ません。コントラファゴットも、ほんとはあんなに曲がったものではなかったはず。

Book Artwork © Natsume-Sha
[PR]
by jurassic_oyaji | 2011-08-07 22:24 | 書籍 | Comments(0)