おやぢの部屋2
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音楽用語ものしり事典
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久保田慶一著
アルテスパブリッシング刊

ISBN978-4-903951-35-5



最初、この本を手に取った時にはなんの違和感もなかったのですが、表紙をスキャンしようと思ってカバーを広げてみたら、なんと、この表紙の下の部分、全体の3分の2がいわゆる「コシマキ」だったのには驚いてしまいました。そもそも「コシマキ」などというものは、読んだあとではジャマなので捨てられてしまうような存在なのですが、こうなるともう限りなく表紙と一体化した「アンサンブル」を形成しています。
さまざまな音楽用語の語源をたどって本来の意味を明らかにするというこの本、「コシマキ」は載っていませんが、「アンサンブル」はきちんと説明されています。ま、「コシマキ」は音楽用語ではなく、農業用語ですがね(それは「コシヒカリ」)。
以前、イタリア語に関しては、こんな卓越した見識の本がありました。何気なく使っている音楽用語が、本当は全く別の意味を持っていたことに、驚かされたものでした。今回は、イタリア語には限らない、もっと幅広い言語が対象になっています。しかも、著者はその辺のやくざなライターとは格の違う、音楽大学の教授、きっと、新たな知識の吸収に役立つことでしょう。
でも、いきなり前書きで、「『コンピレーション』と『オムニバス』とは、似て非なるもの」というフレーズが出てきたのにはちょっとがっかりです。どうやら著者は、「音楽学」や「言語」には詳しくても、「音楽業界用語」には、ごく一般的な知識しかないようですね。というより、この業界の言葉には、いくら「学問」を極めても理解の出来ないようなものがいくらでもあるのですよ。
しかし、「BWVには現在1127番までの番号が付けられている」などと書いていたりするのを見ると、現実に1128番」の録音を手中にしている者としては著者が本当に「音楽学」に詳しいのかなぁ、と懐疑的にならざるを得ません。さらに、そこは「BWV」という言葉に対する説明を行っている箇所だったのですが、その流れで「ケッヘル」についての蘊蓄をたれているところになると、「ドイツ人、ケッヘル」などと書いていますよ。これも、最近この本で、そもそもケッヘルがモーツァルトの作品目録と作ることになる動機が、オーストリア人としての愛国心だと知ったばかりの者にとっては、許し難い記述です。
そんな、「使えない」本だと思って読んでいると、「ソプラノ、アルト、テノール、バス」という項目で、いきなり「目から鱗」になってしまいました。常々、「アルト」というのは「高い」という意味なのに、なぜ女声の低音を指し示す言葉なのか、疑問に思っていたのですが、その疑問がイッキに氷解してしまったのです。つまり、「アルト」と「バス」というのは、元々は「テノール」を基準にして作られた言葉だ、というのですね。「アルト」は、「コントラ・テノール・アルトゥス」、「バス」は「コントラ・テノール・バッスス」という、それぞれ「テノールに対して高い/低い」という意味のラテン語が縮まったものなのだそうです。
そうなると、「アルト」のことをよく「コントラルト」と言ったりしますが、これもさっきの言葉の別の部分を省略した形になるわけですね。しかし、なぜかこの本では「コントラルト」に関しては全く触れていません。こんなにおいしい「ものしり」を逃すなんて、やっぱり使えません。
イラストも最悪、冒頭で使った「アンサンブル」のところでは、「アトミック・アンサンブル」(化学には詳しいつもりですが、こんな言葉は初めて聞きました)というタイトルのイラストがあるのですが、そこでは、ナトリウム原子とカリウム原子と塩素原子が、三角形に「結合」しているのですよ。こんなことは「化学的」にあり得ません。

Book Artwork © Artes Publishing
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by jurassic_oyaji | 2011-08-15 20:32 | 書籍 | Comments(0)