おやぢの部屋2
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SCHUBERT/Winterreise
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Natasa Mirkovic-De Ro(Voice)
Matthias Loibner(Hurdy-Gurdy)
RAUMKLANG/RK 3003




シューベルトの「冬の旅」は、いわゆる「ドイツ・リート」の中では最も有名なものかもしれません。最近では、この曲集を丸ごと合唱でカバーしたものなども作られています。
「リート」として歌われる時でも、オリジナルのピアノではなく、ギターなど他の楽器によって伴奏されることもよくあります。さらに、オーケストラを使って、ほとんど「再構築」といった趣のバージョンを作ってしまった人もいましたね。なにしろ、そのハンス・ツェンダーの編曲では、普通のオーケストラではあまり使われることのないアコーディオンのような楽器まで入っているのですからね。
しかし、今回登場した「ハーディ・ガーディ」は、インパクトから言ったらそんな過去の「変わり種」などは一蹴してしまうほどのものをもっていました。ミントとかじゃないですよ(それは「ハーブ・ガーデン」)。そもそも、そんな楽器の名前さえ、まっとうに暮らしているクラシック・ファンだったら、運がよければ一生聞く機会のないものなのですからね。とりあえず「運の悪い」あなたは、こちらで大まかな知識を仕入れておいて下さいな。
しかし、リンク先にもあるように、この楽器と「冬の旅」とは、因縁浅からぬものがあるのです。最後を飾る曲「Der Leiermann」は、普通は「辻音楽師」などと訳されますが、本来は「ハーディ・ガーディを弾く男」という意味なのですからね。つまり、この曲ではピアノ伴奏がこのハーディ・ガーディの音を模倣しているのですね。確かに、シューベルトの時代には、この楽器は街中でよく目にすることが出来たはずですから、シューベルトも当然それ聴いたことがあって、ミュラーの詩からあのような具体的な音を連想したのでしょう。だったら、いっそのこと、全曲をハーディ・ガーディに伴奏させてしまおう、と考える人がいてもおかしくはありません。
この楽器をきちんと聴いたことなどありませんし、そもそも、常に同じ音を出し続ける「ドローン」なども付随していますから、音楽的にはそれほど自由度の高い楽器だとは思っていませんでした。それこそ、同じような機会に使われそうな「バグパイプ」程度のものだろう、と。しかし、ここで聞こえてきたのは、演奏しているマティアス・ロイブナーの卓越した技術に負うところも大きいのでしょうが、決してピアノに負けないほどの表現力を持った楽器の姿でした。鍵盤の音がうるさいことさえ我慢すれば、かなり細かい音符のパッセージも何不自由なく演奏できていますし、どうやっているのかは分かりませんが、正確なベースラインをピチカートで弾くなどという、もしかしたらこの楽器の能力を超えるようなことまでやっています。そして、必要な時には「ドローン」を存分に使って、いかにも素朴な味を出すことに成功しています。その最大の見せ場は「春の夢」でしょう。
歌っているナターシャ・ミルコヴィッチ・デ・ローは、ボスニア出身の歌手。スタートはジャズやロックだったのですが、やがてクラシカルな唱法も学び、今ではオペラも歌っているという人です。バロック・オペラなども得意にしているのだとか。そんな、歌うことに対して幅広い間口を持っている彼女は、ここでは「ヴォイス」というクレジットの通り、「シューベルトのリート」には全くこだわっていない自由な「声」で、見事にハーディ・ガーディと対峙しています。「凍った涙」では、最初は地声で、まるで語るように歌っていたものが、2番からは見事なベル・カントに変わる、といった具合です。どんな時にも、言葉を立ててピュアな音色で歌われているのを聴いていると、もしかしたら、普通に「ドイツ・リート」と言われているあの大げさな歌い方は、本当はシューベルトにはふさわしくないのでは、とさえ思わせられてしまいます。これは、とても素敵な体験でした。

CD Artwork © Raumklang
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by jurassic_oyaji | 2011-08-23 23:06 | 歌曲 | Comments(0)