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黄金のフルートをもつ男
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ジェームズ・ゴールウェイ & リンダ・ブリッジズ著
高岡園子訳
時事通信社刊
ISBN978-4-7887-1165-5



今年も、もう少しするとゴールウェイが来日して、コンサートやマスタークラスを開催します。それに合わせて、彼が70歳になった2009年に出版された「自叙伝」の日本語版が発売になりました。これは実は「2度目」の「自叙伝」、今から30年以上前、1978年にも、「1度目」を出しているのですよ(日本語版の出版は1989年)。
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前の自叙伝を書いたのは、彼がバイクにぶつけられて両足と腕を骨折するという大事故に遭った直後でした。一時は再起不能か、とも言われた大怪我から奇跡的に復帰、そこには、なにか期するものがあったに違いありません。その最後の部分では、「これからは、あらゆる演奏会において、この演奏がこの世での私の最後の演奏になるかもしれない、という気持ちで務めよう」と、切実な思いが語られています。
今回は、著者にはゴールウェイ本人の他にもう一人のクレジットがあります。おそらく、多忙なゴールウェイに代わって、彼の語ったこと、あるいはメールでのやりとりなどを元に、実際に執筆にあたったのが、このリンダ・ブリッジズなのでしょう。ふつうは、決して表に名前が出ることはない「ゴースト・ライター」のブリッジズさんは、そんな扱いに値するようないい仕事をやってのけています。ここには、ゴールウェイが今までの人生で出会ったかけがえのない人たちが、まさに感謝の心があふれた筆致で見事に描かれているのですからね。そして、そこには彼ならではのウィットに富んだ言い回しがふんだんにちりばめられていますから、読んでいて楽しいのなんの。
当然のことながら、今回の自叙伝の前半は、前回のものの完全な焼き直しです。登場する人たちはもちろん同じ、そして、そこで語られる「オチ」も全く同じというのは、ある意味仕方のないことなのでしょうね。もちろん、真のゴールウェイ・ファンであれば、そんな「二番煎じ」の中からも、新しい意味を見いだすはずです。
今回面白かったのは、彼のレコーディングについての記述です。初期の録音でのスタッフの話は、なかなか生々しくて、興味が尽きません。不完全ながら、ディスコグラフィーもついていますしね。
ただ、ちょっと事実関係が曖昧になっているのが気になります。RCAへの最初の録音は1975年5月にロンドンのキングズウェイ・ホールで行われたのですが、CDの録音データによるとアルゲリッチとプロコフィエフなどを録音したのが20日と21日、チャールズ・ゲルハルトの指揮で後にこの本のタイトルと同じ「Man with the Golden Flute」となる「フルート名曲集」の録音が行われたのは22日から24日となっています。しかし、この本の中では「(名曲集に)引き続き、マルタ・アルゲリッチとのフルートとピアノのためのソナタだ」と、そなたりの日時が逆になっていますよ。さらに、ゴールウェイはこの時のプロデューサーがチャールズ・ゲルハルト、エンジニアが大御所のケネス・ウィルキンソンと書いていますが、クレジットは、「アルゲリッチ」のプロデューサーは確かにゲルハルトでも、「名曲集」はジョージ・コルンゴルト(オペラ「死の都」や、数多くの映画音楽を作ったエーリッヒの次男)、そしてエンジニアはともにDECCAでのウィルキンソンのアシスタント、コリン・ムーアフットなのです。実際にウィルキンソンが手がけた1978年の「Songs for Annie」と比較してみると、音のポリシーがまるで違います。まあ、昔のことですから、記憶が曖昧になっているのでしょう。
レーベルに関しては、DGへの移籍などにも触れて欲しかったと思いますが、逆にこれは新しすぎて、まだ回顧の対象にはなっていないのでしょうか。
前の自叙伝で、労働者階級から世界最高のフルーティストに躍り出たゴールウェイ、ここではなんと、日本の皇后陛下のデュエットの相手にまで上り詰めてしまいました。この本が爵位を授与された場面から始まるというのは、あまりに象徴的です。

Book Artwork © Jiji Tsushinsha
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by jurassic_oyaji | 2011-09-08 19:56 | 書籍 | Comments(0)