Barbara Hannigan(Sop), Susan Parry(MS)
Péter Eötvös/
WDR Rundfunkchor Köln
SWR Vokalensemble Stuttgart
WDR Sinfonieorchester Köln
BMC/CD 166
いくら
CDの生産量が減ったからといっても、世界中でリリースされるものはまだまだ膨大な数に上ります。当然、いくらていねいにチェックをしていても、つい、見逃してしまうアイテムだって出てきます。このリゲティの「レクイエム」の新録音も、そんな一つでした。なにしろ、このハンガリーのレーベルは、よく利用している通販サイトでは、リニューアルした時に行方不明になってしまって、未だに修復されていないものですから。こんなものがあるのを知ったのは、ですから、ネットではなく紙媒体、「レコード芸術」の海外盤案内での長木センセーのレビューだったのです。
そこで、国内では入手できなかったので
UKの
AMAZONに注文したら、それは6日目にはもう手元に届いてしまいましたよ。この円高ですから、送料を含んでも、国内で買うより安いようでしたし、なんとありがたいことでしょう。
その現物は、なんと2枚組。しかし、1枚は同じ内容の
DVD-Audioでした。ハイブリッドの
SACDの方がよっぽど扱いやすいのに、ハンガリーではまだこんなものが残っているのですね。立派なジャケットも、今時珍しい「前衛的」な造りです。
収録曲は
2008年に録音されたもので、「レクイエム」の他に、これが
ノット盤に次いで2度目の録音となる
1959年の作品「アパリシオン」と、やはりノットが録音していた、こちらは小澤征爾時代のサンフランシスコ交響楽団の委嘱作品「サンフランシスコ・ポリフォニー」(
1974年)です。
「レクイエム」には、いままで
1968年のギーレン盤と、
2002年の
ノット盤の録音がありました。さっきの長木センセーのレビューではもう一つ「『
2001年』のサントラに使われたトラヴィス盤」というのが登場しますが、これは
1967年の放送音源で、今のところ市販の
CDにはなっていないはずです。私の手元には指揮者からいただいた
CD-Rがありますから、
長期にわたって聴いていますが、センセーもトラヴィスとはお知り合いですから、お持ちになっていたのでしょう。でも、同時に「初演者のトラヴィス」なんて書いていますから、もしかしたらギーレンと混同しているのかもしれませんね。
1965年にこの曲をストックホルムで初演したのは、フランシス・トラヴィスではなくミヒャエル・ギーレンなのですからね。
今回、エトヴェシュのもとで歌っている合唱団は、
SWRヴォーカルアンサンブルと
WDR放送合唱団です。おそらく両方ともルパート・フーバーが合唱指揮にあたっているのでしょう。こういうものにかけては得意なはずのフーバーが、ここではなんともハイテンションの合唱を提供しています。それは、エトヴェシュの意向に添ったものなのでしょうが、例えば、まさに「
2001年」の「モノリスのテーマ」として使われていた「
Kyrie」では言いようのない恐怖感を募らせていたトラヴィス指揮のバイエルン放送合唱団のような、強い切迫感を与えられるものでした。最近のノット盤での、テリー・エドワーズに率いられたロンドン・ヴォイセズがなんとも醒めた演奏を聴かせてくれた時には、それもこの曲への一つのアプローチなのかな、とは思ったのですが、やはりこちらの方が、リゲティの音楽の本質に迫るもののような気がします。
2人のソリストも、きれいにまとまったノット盤よりも、ちょっと粗野な面をさらけ出している今回の方が、この合唱と同じ世界を共有できるのではないでしょうか。
それとは対照的に、オーケストラだけで演奏される他の2曲は、ぐっと落ち着いた冷静な味が出ています。「サンフランシスコ・ポリフォニー」の後半に登場するミニマル的な処理も、きちんとアイロニカルなテイストが強調されてはいないでしょうか。
DVD-Audioを付けるぐらいですから、録音にも自信があるのでしょう。こんなマイナーなメディアではなく、もっと汎用的なものにしておけば、万華鏡のようなクラスターを、存分に味わうことができたのに。
CD Artwork © Budapest Music Center Records