おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
MOZART, SUESSMAYR/Concertos & Quintett for Basset Clarinet
c0039487_10273531.jpg



Luigi Magistrelli(B.Cl)
Italian Classical Consort
GALLO/CD-1353




モーツァルトの晩年の作品、「クラリネット五重奏曲」と「クラリネット協奏曲」は、友人のクラリネット奏者アントン・シュタードラーのために作られたものであることは良く知られています。さらに、最近ではそれらは「クラリネット」ではなく、シュタードラーが開発にかかわった楽器「バセット・クラリネット」で演奏するために作られたことも、ほぼ「常識」となっています。「バセット・クラリネット」というのは胸の谷間で支えて演奏する楽器(それは「バスト・クラリネット」)ではなく、A管のクラリネットの最低音より長三度低い音まで出せるように、管長を伸ばして新たにキーを加えた楽器です(記譜上は最低音が「ミ」だったものが、「ド」まで伸びたということです)。もちろん、モーツァルトはその音域いっぱい、「ド」までの音を使って作曲したのですが、それが出版された時には、そんな特殊な楽器ではなく、ふつうのクラリネットで吹けるようにという営業上の都合で、出版社によって「レ」から下の音が出てくるパッセージがすべて書き換えられてしまいました。そもそも、シュタードラーが使った楽器はそれっきりなくなってしまいましたし、この2曲の自筆稿も消失していたので、後世の演奏家は「クラリネットのために編曲された」協奏曲や五重奏曲をオリジナルだと信じて演奏し続けてきたのですね。
それが、最近の研究によって、この楽器の存在が知られるようになり、楽器も楽譜も復元されてやっと作曲家が書いたとおりの音符が聴けるようになったのは、ご存じの通りです。厳格なピリオド楽器だけではなく、ザビーネ・マイヤーのようなメジャーどころもモダン楽器に手を加えたもので演奏や録音を行っていますから、今ではマニアではなくてもこの楽器は広く知られるようになっているはずです。
このCDも、やはり「モダン」のクラリネット奏者ルイジ・マギステッリが、バセット・クラリネットで演奏したモーツァルトの2つの作品です。さらにもう一つ、ここにはなんと、あのジュスマイヤーが作った「バセット・クラリネット協奏曲」までもが、1楽章だけですが、演奏されていますよ。
c0039487_10291694.jpg

これは、このCDのライナーに載っている、1992年に発見されたという、この楽器の具体的な形状が記された貴重な文献、1794年にシュタードラーがラトヴィアのリガで開催したバセット・クラリネットによるコンサートの広告のコピーです。この中で、モーツァルトの作品と並んで「ジュスマイヤーのクラリネット協奏曲」が曲目となっているのですよ。言ってみれば、このCDはシュタードラーのコンサートを現代に蘇らせたものなのでしょう。
そのジュスマイヤーの協奏曲は、まさに溌剌とした音楽の喜びが満ち溢れたものでした。イントロで単純な三和音のアルペジオが堂々と響き渡るという恥かしさが、すべてを物語っています。時には華麗できらびやかな音形で飾り立て、時にはしっとりと歌い上げるという、どこまで行っても聴く人に楽しんでもらいたいという気持ちがみなぎっているのですね。さらに、途中ではいきなり短調に変わって、それまでと全く違った語り口でさらなる魅力をふりまいていますよ。なんたって、一部の人にはモーツァルトの「レクイエム」の中では最も美しいとさえ言われているあの「Benedictus」を「作曲」した人なのですから、彼の腕は保証付き。そのフレーズはこの楽器のすべての音域をカバーして、しっかりデモンストレーションとしての役割まで完璧に果たしています。
マギステッリの提案で、この協奏曲も、そしてモーツァルトの協奏曲も、オーケストラは各パート一人ずつというコンパクトな編成で演奏されています。たとえばモーツァルトの第1楽章の20小節目などに現れる下降音形に♭がつくという「ムジカ・フィクタ」も難なく処理、彼のバセット・クラリネットは自由な装飾を織り込みつつ、どこまでも軽やかな動きでこの楽器の魅力を存分に振りまいています。

CD Artwork © VDE-Gallo
[PR]
by jurassic_oyaji | 2011-11-24 10:29 | 室内楽 | Comments(0)