おやぢの部屋2
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Arias
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Christine Schäfer(Sop)
Julien Salemkour/
Symphonie-Orchester Berlin
SONY/88697914002




クリスティーネ・シェーファーのアルバムは、最近はもうほとんど「アート」と化しています。別にカミソリのオブジェが登場するわけではありませんが(それは「シェーバー」)、なにしろ、このジャケットには全然字がないのですからね。この写真で全てを語る、というコンセプトなのでしょうが、こんなどぎついメークにソフトクリームのような鬘では、この人がシェーファーだなんて、分かりませんよ。ブックレットの中にも、やはりこんなお人形さんみたいなコスプレの写真がてんこ盛りですが、どれを見ても「こんなの、シェーファーじゃないやいっ!」と言いたくなるようなけばけばしさです。「アート」もほどほどにして欲しいものです。
字がなければ、アルバムのタイトルも分かりません。一応背中に書いてあるのが「Arias」という単語、とりあえず「オペラアリア集」でしょうか。確かに、このアルバムは「オペラアリア」を集めたものには違いありませんが、ふつうその様に呼ばれている、いわば「名曲集」といった趣は、ここには全くありません。そもそも、「トリ」として最後に演奏されているのがメシアンの「アッシジの聖フランチェスコ」という、「オペラ」と呼ぶにはあまりに型破りな作品なのですからね。
そう、そんな「型破り」こそが、シェーファーの真骨頂なのでしょう。そんじょそこらの甘ったるい「オペラアリア集」とはまるで違った、これ自体が彼女の「作品」であるかのようなぶっとんだ「アリア集」を楽しんでみようではありませんか。
最初に登場するのが、リヒャルト・シュトラウスの「ナクソス島のアリアドネ」からの、「作曲家」のナンバー「Sein wir wieder gut」です。これはまず、オーケストラの華麗な響きによってなにか別の世界へ引き込まれてしまいます。シュトラウスならではの仕掛けが満載のオーケストレーション、そこからはまさに退廃的な香りがぷんぷんと漂ってきます。おそらく、このあたりの感触を、ジャケットの写真は表現しているのでしょう。しかし、彼女の声はあくまでクールです。退廃の海の中にあっても、決してそれに溺れることなく自らを律すると言う芯の強さこそが、彼女の持ち味に違いありません。
次は一転してバロック・エラに突入です。ヘンデルの「セメレ」から「O sleep, why dost thou leave me?」。彼女のクールさは、バロックゆえにさらに磨きがかかります。
かと思うと、その直後に今度はベッリーニの「夢遊病の女」からの「Ah! non credea mirarti」といったベル・カントを披露です。バロックとは正反対の表現力を必要とされるものですが、そのコロラトゥーラは彼女にとってはいとも御しやすいものなのでしょう。ただのテクニックに終わることのない確かな華麗さが光ります。
その様な流れの中では、アルバム中最もベタなナンバー、ヴェルディの「オテロ」からの「Canzone del salice」と「Ave Maria」でさえも、いとも新鮮な味で迫ってきます。シェーファーがヴェルディを歌うと、過剰な感情を排した分、リアリティが増すのでしょうね。
このアルバムでは、時折「箸休め」といった感じでオーケストラだけの演奏が挟まります。ビゼーの「アルルの女」の「アダージェット」などは、見事にシェーファーのコンセプトを反映したクールなものでしたし、シェーンベルクの「Farben」などは、逆に暖かさに包まれていて、興味深いものでした。
そのシェーンベルクに導かれて、メシアンの登場です。天使がタイトル・ロールに向けて語る「Ah! Dieu nous éblouit par excès de Vérité」は、例えばナガノ盤でのアップショーなどとは微妙に異なるアプローチ、メシアン独特の音列から「凄み」のようなものが発散しています。そして、バックのオケはまさに完璧でした。ピッコロによる鳥の声の模倣は背筋が寒くなるほどのインパクトがあります。エンディングでの、オンド・マルトノの絶妙なモレンドとともに完結するシェーファーの世界、見事です。

CD Artwork © Sony Music Entertainment
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by jurassic_oyaji | 2011-12-07 20:51 | オペラ | Comments(0)