おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
BACH/TAKAHASHI/The (Electronic)Art of the Fugue
c0039487_2026569.jpg




高橋悠治(Syn)
DENON/COCO-73258




先日のゴールウェイのテレマンと同じ時期に、こんな懐かしいアイテムがリリースされていました。1975年のLPCD化です。もっとも、CD自体は1991年に出ていたのですが、その時には気づかずに、お値段がお安くなってからの今回のリイシューでめでたくゲットです。
この頃の悠治は、開発されたばかりの「デジタル録音」を駆使して、DENONレーベルにバッハを始めとした多くのレパートリーを立て続けに録音していました。「ノイズのないクリアな音」というのが売り物だったはずですが、確かにメリハリのきいたシャープな音でした。ただ、もちろんその頃はまだCDはありませんでしたから、LPのサーフェス・ノイズなどが邪魔をしていて、完全に「ノイズがない」というわけにはいきませんでしたけれど。
ですから、市場にCDが出回って、このような初期のデジタル録音の音源がCD化された時には、大きな期待を持ったものです。ところが、実際に聴いてみるとその音はそれほど良くはないのですね。一番がっかりしたのは、1977年に、悠治とロバート・エイトケンが共演して録音された福島和夫の作品集です。その中に入っているフルート・ソロの作品「冥」などは、なんとも薄っぺらな音で、LPでは確かに聴けたはずの息づかいが、まるで伝わってこなかったのですよ。
今になれば、その原因はいくつか思い浮かべることが出来ます。まずは、マスタリングの技術が確立されていなかったこと。このCDも、後に再発された時にはいくらかマシな音になっていましたね。しかし、もっと大きな要因は、初期のDENONCDとのスペックの違いです。ご存じのように、CDではサンプリング周波数が44.1kHz、量子化ビット数が16bitという規格が定められていますが、同じ「デジタル」でもDENONの場合は1977年の時点では47.25kHz/14bit、さらに、もう少し前だと47.25kHz/13bitでしたから、「CD以下」のスペックだったのですよ。もちろん、それは今にして思えば「アナログ以下」ということになるのですがね。
この「フーガの(電子)技法」は、バッハの「フーガの技法」をシンセサイザーで演奏したものです。使われている「楽器は」、ワルター(ウェンディ)・カーロスや冨田勲がメインで使っていたモーグのモジュラー・シンセサイザーと、当時は「現代作曲家」の間ではなぜか好まれていた「EMS」という、こちらは今のノート・パソコンのように畳んで持ち運びの出来るシンセです。もちろん、この頃はまだ「デジタル」のシンセは出来ていませんでしたから、音色やエンヴェロープを決めるのも結構アバウト、さらに、どちらの機種も単音しか出せませんから、マルチトラックで音を重ねていって、多声部の音楽を作らなければなりません。
そして、今とは決定的に違っていたのが、シークエンサーがなかったことです。いや、沖縄のジュース(それは「シークワーサー」)ではなく長いフレーズを入力する機材のことですが、それがまだ使えませんから、キーボードを「手で」弾いてリアルタイムで入力しなければいけなかったのですよ。隔世の感がありますね。
ここではもちろん悠治がその「入力」を行っているのですが、それがかなりいいかげんなのですね。「コントラプンクトゥスVIII」あたりでは、各声部の縦の線がもうメチャメチャ、「フーガ」の体をなしていません。この頃のシンセはピッチも不安定でしたが、その管理も行き届いてはいなかったようで、「完成度」としては、カーロスのSwitched-On Bachの足許にも及ばないものなのです。
このアルバムは、そんな時代の、この「楽器」を使ってなにか新しい体験はできないかと模索していた音楽家の軌跡、として聴くべきものなのでしょう。幸いにも、これはデジタル録音には馴染まないものでしたから、アナログのマスターテープとして残っていました。そこからは、そんなあがきまでもが、生々しい電子音を通して伝わってくるはずです。

CD Artwork © Nippon Columbia Co., Ltd.
[PR]
by jurassic_oyaji | 2012-01-11 20:27 | 室内楽 | Comments(0)