おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
ザ・ビートルズ・サウンド 最後の真実<新装版>
c0039487_19481770.jpg





ジェフ・エメリック著
奥田祐士訳
白夜書房刊
ISBN978-4-86191-556-7



イギリスのレコーディング・エンジニア、ジェフ・エメリックが、ライターのハワード・マッセイの協力のもとに2005年に出版した「Here, There and Everywhere-My Life Recording the Music of THE BEATLES」という彼の自伝は、邦題がこんな陳腐になった日本語版が2006年に出版されています。その後、2009年に、この本の中で主に語られているアーティストのデジタル・リマスターCDの発売に合わせてこの<新装版>が出版されました。
この本が出た時には、全く何の興味もありませんでした。それこそ、ジョージ・マーティンが1979年に「All You Need Is Ears」という自伝を書いて以来幾度となく繰り返された同じような「内幕本」の出版となんら変わるものではないのだ、と。
しかし、つい最近、さる大型書店にあったこの本を手にとって、少し立ち読みを始めた途端、これが出た時に読まなかったことを心底後悔してしまいました。これは、伝聞ではなく、すべて著者自身の体験したことを書きとどめたもの、いわば、もはやほとんど「歴史」と化した「ザ・ビートルズ」に関する、まさに膨大な「一次資料」ではありませんか。さっそくその場で購入、遅まきながらのご紹介です。
ジェフ・エメリックというカレーの好きな(それは「ターメリック」)人は、子供のころからレコーディング・エンジニアになりたいという夢を持っていて、それを実現するために15歳の時にEMIに入社、その後、「ザ・ビートルズ」の中期から後期のレコーディングにエンジニアとして参加することになります。その最大の功績は、名盤とだれしもが認める「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」での革命的な音づくりでしょう。彼は、バンドのメンバーのわがままな要請にこたえるべく、あらゆる手段を使って今までになかったような録音のテクニックを編み出します。それぞれの曲について、こまごましたレコーディングの模様を逐一、まさに見てきたかのように克明に教えてくれるのですから、たまりません。実は、このあたりのことはさっきのジョージ・マーティンの本にも書かれてはいました。しかし、それはなんともお座なりな書き方で、実際に現場で苦労していた様子などはほとんど感じられないだけでなく、中にはエメリックがやったことをさも自分が考え出したような書き方をしているところもあり、今となっては「資料」としての価値すらないものです。
ここで初めて知ったのですが、イギリスで最初に発売されたレコードでは、最後の「A Day in the Life」のコーダで、オーケストラのクラスターに続いてピアノ数台のアコードが鳴らされ、それが減衰していって、完全に無音になったあとで唐突に始まる人の声を、LPの溝の最もレーベル寄りの針が止まる部分にカッティングしたのだそうですね。そうすれば、これは完全にループとなって針を上げるまで延々と続くことになります。でも、国内盤のLPでは、ごく普通に最後に1回だけ「声」が入っているだけでした。とても、そんな面倒くさいカッティングなど、やってられなかったのでしょう。それが、CDでは同じことを何度も繰り返して最後はフェイド・アウトになっています。彼らの「ジョーク」が、CD時代になってやっと誰でも聴けるようになったのですね。
ここで語られる、バンドのメンバーに対する彼の評価も、興味があります。最初のころは全くのダメ人間だったジョージ・ハリスンが、「Abbey Road」の頃には見違えるように成長したと感じるあたりは、とても説得力にあふれています。そのアルバムの有名なジャケット写真は、様々なショットの中から「スタジオから逃げ出している」方向のものを選んだのだそうです。このアルバムの成功を受けて、1970年代にそれまでの「EMI Recording Studios」から「Abbey Road Studios」と名前を変え、観光名所にまでなったこのスタジオを、本当は彼らは毛嫌いしていたのですね。それがなぜかは、この本を読むと容易に分かります。

Book Artwork © Byakuya-Shobo Co., Ltd.
[PR]
by jurassic_oyaji | 2012-01-15 19:49 | 書籍 | Comments(0)