Walter Auer(Fl)
長尾洋史(Pf)
LIVE NOTES/WWCC-7665
毎年お正月にウィーンからの生中継で放送されるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートは、もはや日本のお茶の間には欠かせない催しとなっているようです。以前はちょっとマニアックな
BSで放送されていたものが、最近は地デジ、しかも時間帯はゴールデン・タイムですから、普段「クラシック」などには無関心の人でも、これだけは「年に一度のぜいたく」として見ているのかも知れません。
そんな晴れがましいコンサートで、今年フルートのトップを吹いていたのが、ウィーン・フィルのフルートパートの中ではもっとも若いこのワルター・アウアーでした(その次に若かったギュンター・フォーグルマイヤーは、1月
11日に亡くなってしまいました。ご冥福をお祈りします)。ついに重鎮のヴォルフガング・シュルツも引退しましたから、これからは彼の時代になっていくでしょうか。確かに、オケの中で聴くともう一人の「首席」ディーター・フルーリーよりはずっと輝かしい音のようでした。
そんな、オーケストラの中では着実に実績を上げているアウアーの、これはソリストとしてのデビュー・アルバムとなります。制作したのは日本のレーベルというあたりが、最近の録音事情を物語っているようですが、さらに今回の場合は、実際にプロデュースを行ったのは彼が使っている楽器のメーカー、そんな「付加価値」でもないことには、こんな「大物」でも
CDを作るのが難しいような時代なのでしょうか。録音されたのは
2008年、なぜリリースまでにこんなに時間がかかったのかも、それなりの「事情」があったのでしょうね。
曲目は、モダン・フルーティストとしての意気込みを前面に出したものでした。それは、フルートの技巧を極限まで駆使して、まさに「ブリリアント」な世界を築き上げるという、正直「音楽」よりは「テクニック」を、もっぱらフルートを学ぶ人たちに対してアピールする、といったようなものばかりのように感じられます。ただ、最初と最後に、それぞれワーグナーとビゼーのオペラをモチーフにした作品を持ってきたあたりが、オペラハウスでの演奏が本業のオーケストラのメンバーとしての彼の「こだわり」だったのかもしれません。
冒頭を飾る、そのワーグナーの「ローエングリン」を、ブリッチャルディが華麗な「ファンタジー」に仕立てたものは、初めて聴きました。ヴェルディなどではこの手のものは良くありますが、まさかワーグナーでもこんなパラフレーズが出来るとは、思ってもみませんでしたよ。確かに「結婚行進曲」や「エルザの夢」などは、当時はキャッチーに思えたのでしょう。そのテーマをグロテスクなまでにフルートの細かい音符で飾り立てたという、ただそれだけの曲です。
彼の曲ではもう一つ、「ヴェニスの謝肉祭」も聴くことが出来ます。なんといってもゴールウェイのイメージが拭いきれないものにとっては、技巧はともかく高音のほんのちょっとした「逃げ」が物足りなく感じられてしまいます。それは、あるいは、残響が少し邪魔をしている鈍い録音のせいなのかもしれませんが。
クーラウの「ファンタジー」という無伴奏の曲は、フルートを吹く人の間だけでは有名な割には、録音はほとんどありませんでしたから、「参考演奏」として何よりの贈り物です。いや、技巧の影からさりげなく顔を出すちょっと小粋なフレージングなどは、ただ「参考」にするだけでは惜しいものがあります。
最後のボルヌの「カルメン幻想曲」まで嬉々として
聴き通せたとしたら、それはとてもフルートが好きなことの証しになることでしょう。でも、ふつうの「クラシック」ファンにとっては、ちょっと退屈してしまうアルバムなのかもしれません。
CD Artwork © Nami Records Co., Ltd.