おやぢの部屋2
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楽都ウィーンの光と陰
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岡田暁生著
小学館刊
ISBN978-4-09-388273-8



一時は「国民的映画」と呼ばれ、年に2回、お盆とお正月に新作が上映される時には、映画館は常に満員になったという「男はつらいよ」シリーズは、もちろん今ではDVDで全作見ることができます。さらに、最近ではマスターからハイビジョンに変換されて、テレビで放送されていたりしますから、それをそのままBDにダビングすればハイビジョンのクオリティのコレクションが出来上がることになります。大画面のモニターで見れば劇場で見るものと遜色のない映像が楽しめるのですから、これはたまりません。目の毒かも(それは「ハイレグ美女」)。
そんな美しい画面で見てみたのが、かなり後期の作品、1989年の第41作、「寅次郎心の旅路」でした。これは、なんと寅さんがウィーンへ行く、というとても現実にはあり得ない(いや、そもそも「寅さん」は現実じゃないし)シチュエーションの物語でした。ウィーン市あたりが全面協力をして撮影されたもので、ウィーンでのロケが大々的にフィーチャーされていましたね。上映された頃はまだウィーンには行ったことがありませんでしたから(いや、今でも行ってませんが)、そこで目にした建造物や公園などには具体的な思い入れなどありませんでしたが、それから例えば「ニューイヤーコンサート」のおまけの映像や、最近のシェーンブルン宮殿でのコンサートの模様などを見たあとでは、なにかとても親近感を覚えたものです。それにしても、竹下景子の眉毛は太かった。
そんな折、小学館からこんな本が出版されました。最近、小学館から「ウィーン・フィル魅惑の名曲」というタイトルであの「ディアゴスティーニ」みたいに隔週で発行されていたCD付きのマガジンがありましたが、その中に毎号岡田さんが執筆されていたエッセイを、まとめたものなのだそうです。
まあ、そのマガジンとのかねあいなのでしょうか、帯には「ウィーン・フィルのすべて」という、おそらく編集者がそれこそ浅田真央の本のように著者の承諾を得ないで付けたのではないかというようなキャッチコピーが踊っていますが、これはあまり信用しない方が良さそうですね。確かにウィーン・フィルの歴史などは細かく紹介はされていますが、この本の目指したものはそれだけにはとどまらない、「ウィーン」という都市の歴史を、大きく世界史、そして音楽史の観点から俯瞰したという、かなり広い視野を持つものなのですからね。
ですから、かつてはまさに正真正銘の「音楽の都」であったウィーンが、フランス革命、そして2つの大戦を経て現在の「単なる観光地」に成り下がる様子を、その土地のオーケストラであるウィーン・フィルを舞台に語る、という手法には、興奮をおぼえるほどの迫力があります。さらに、「クラシック音楽」を支える人たちの変遷、あるいはシェーンベルクのような「新しい」作曲家が徹底的にこの街からは排斥されていたという指摘などは、まさに「西洋音楽史」の著者ならではの鋭い視点です。
もちろん、あのナチズムの時代のウィーン・フィルの現状なども、血が凍る思いでした。ベルリン・フィルなどとは比べものにならないほどの過酷な現実がここにはあったのですね。
最後に、そんな落ちぶれた街を舞台にした映画「第三の男」が登場します。いわばウィーンの「陰」を描いたこの映画は、さっきの「寅さん」で執拗にオマージュの対象になっていたことを思い出しました。それは、単なる観光映画は作りたくなかった山田洋次監督のこだわりだったのでしょうか。その一つが、柄本明が舞踏会(それがどんなものであるかも、この本では明らかにされています。映画を見た時にはまさかほんとにこんなものがあるとは思いませんでした)から帰ってくるところで、影が壁に投影されるシーンだというのは、有名な話です。ご丁寧にチターまで鳴ってくれますし。

Book Artwork © Shogakukan
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by jurassic_oyaji | 2012-02-16 23:03 | 書籍 | Comments(0)