おやぢの部屋2
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The Red Piano
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Yundi(Pf)
Chen Zuohuang/
China NCPA Concert Hall Orchestra
EMI/0 88658 2




2000年のショパン・コンクールで優勝した中国出身のピアニスト、ユンディ・リは、鳴り物入りでDGの専属アーティストに迎えられ、何枚かのアルバムをリリースしていましたが、2010年からはEMIに移籍、アーティスト名もただの「ユンディ」となっていました(ユンディと呼んで)。でも、せっかくEMIに来たというのに、そこがDGの親会社であるユニバーサルに買収されてしまったのですから、移籍の意味がありませんね。
とりあえず、EMIからの3枚目となるアルバムでは、それまでのショパン路線からガラリと変わって、なんと「ピアノ協奏曲『黄河』」などというとんでもない曲と、中国の伝承歌をアレンジしたもののカップリングという、「中国路線」になっていました。ほんの数年前には、彼のライバル(?)であるラン・ラン(この人がEMIに来ると「ラン」になるのでしょうか)が、やはり「黄河」をメインにした同じようなアルバムを出していましが、これが中国のアーティストのトレンドなのでしょうか。
ピアノ協奏曲「黄河」と言えば、ほぼ半世紀近く前の中国での「プロレタリア文化大革命」との関連なしには語れない、と思っている人は、もはや少なくなってしまっているのかもしれません。この作品が1973年に初めて「西側」のアーティストによって録音された時には、作曲家の名前すら表記されることはなく、ただ「中央楽団集団創作」となっていました。「紅衛兵」によって「自己批判」を強いられた文化人が多かった中で、なんとも「プロレタリアート」的な作曲のされ方に、言いようのない嫌悪感を抱いたものでした。実際、最後の楽章では毛沢東賛歌である「東方紅」や、なんと「インターナショナル」までが引用されているのですからね。
しかし、今回のCDでは、この曲にはしっかり「洗星海が作曲した『黄河カンタータ』をもとに、殷承宗、触望?、盛禮洪、劉荘が編曲」と、ある程度の個人名が表記されたクレジットがあるので、一応「作品」としての体裁は整っているように見えてしまいます。とは言っても、「元ネタ」である1939年に作られたカンタータは、日本軍の中国侵略に対する抵抗の意味が生々しく込められた曲なのですから、そもそも「芸術的」なモチベーションは二の次、といったイメージはぬぐえません。
ところが、そんな怪しげな作品を、ユンディくんとこの「中国国家大劇院コンサートホール管弦楽団」は、いとも誇らしげに演奏しているのですね。実は、我々にとっては「ゲテモノ」に思われてしまうようなこの作品は、1969年に作曲された時から、まさに中国の近代化を象徴するような「名曲」として、多くの国民に親しまれてきたものなのですね。例えば、編曲者に名を連ねている、初演の時のピアニスト、殷承宗は、中国国内だけではなく、MARCO POLO(現在はNAXOSに移行)などというインターナショナルなレーベルにまでこの曲の録音を行っています。
そして、この正体不明のオーケストラは、紛れもない「西洋音楽」の音を出していました。そこに、ショパン・コンクール・ウィナーが加わるのですから、演奏自体は「西洋音楽」そのものです。終楽章でしつこく繰り返される変奏曲のテーマも、まるでラジオ体操のように元気が良いだけ、と思っていると、テーマの後半がまるでマーラーの交響曲第1番の第3楽章のテーマのようには聴こえてはきませんか?
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この曲のオーケストレーションは、普通の2管編成に、フルート奏者の持ち替えで「竹笛」が加わるほか、オプションで「琵琶」が入ることがあります。1973年のオーマンディ盤(↑)では、その琵琶はまさに「中国」をしっかり演出していましたが、今回の録音には用いられてはいません。確かに、ここにそんなものが入ってしまったら、せっかくの「西洋音楽」が台無しです。なんたって、このアルバムのターゲットは全世界なのですから。

CD Artwork © EMI Records Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2012-02-20 21:07 | ピアノ | Comments(0)