おやぢの部屋2
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KNECHT/Orchesterwerke und Arien
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Sarah Wegener(Sop)
Frieder Bernius/
Hofkapelle Stuttgart
CARUS/83.228




あのモーツァルトが生まれる4年前、1752年に南ドイツの街ビーベラッハに生まれ、シュトゥットガルトの宮廷楽長なども務めたという作曲家/オルガニスト/音楽学者のユスティン・ハインリヒ・クネヒトは、今ではすっかり忘れ去られてしまっているかに見えますが、ある一つの事柄によってその名前だけはかろうじて音楽史の片隅にとどまっています。それは、「ベートーヴェンが交響曲第6番『田園』を作った時に、参考にした曲がある。それがクネヒトの『田園交響曲』だ」というものです。
確かに、昔、柴田南雄さんの曲目解説でその様なことを読んだ憶えがありました。ですから、それほど「有名」な曲ならば今の時代ですから、すでに誰か録音しているのではないかと思っていたのですが、実はこのベルニウスの録音が「世界初」だというのですから、ちょっとびっくりしてしまいました。柴田さんのものだけではなく、この「俗説」はかなり広範にお目にかかれるものなのですが、それを書いた人たちは誰一人としてこの曲の「音」は聴かずに、それを語っていたのですね。そういうのを「請け売り」と言います。ゴーヤじゃないですよ(それは「ニガウリ」)。
もっとも、文字情報だけは流布していたようです。このCDのブックレットにもある出版譜の表紙がそうです。
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これを見ると、どこにも「田園交響曲」などという名前はないことが分かります。正式なタイトルは「自然の音楽的描写、または大交響曲」というものです。その下に楽器編成が書いてありますが、もちろんこれはいやしくも「交響曲」なのですから、弦楽器は複数用意しなければいけません。これを見て「『交響曲』とは言っても、弦楽四重奏に管楽器が加わったもの」などと言っているのは、業界の習慣を知らない人です。
そして、そのさらに下にあるのが、テキストによる楽章ごとの「描写」です。こんな感じ。

  1. 美しい田舎、そこでは太陽は輝き、優しい東風はそよぎ、谷間に小川は流れ、鳥がさえずる。急流は音を立てて流れ落ち、羊飼いは笛を吹き、羊たちは跳びはね、羊飼いの女が美しい声で歌を歌う。
  2. 突然空が暗くなり、あたりの自然は不安に息をのむ。黒い雲が集まり、風が吹き始め、遠くでは雷鳴がとどろき、嵐がゆっくりと近づいてくる。
  3. 嵐は全ての力で襲いかかり、風はごうごうとうなり、雨は叩きつけ、木々の先端は音を立て、急流の水は轟音をあげながら溢れかえる。
  4. 嵐は次第におさまり、雲は消え、空は晴れ渡る。
  5. 自然は喜びに満ち、天に向かって声を張り上げる。それは、創造主への心からの感謝を捧げる甘く心地よい歌だ。

確かに、これだけ見るとベートーヴェンの「田園」とよく似ていますね。楽章も5つ。ただ、ベートーヴェンの第3楽章(農民の愉快な集い)に相当するテキストがありませんね。
実際に「音」を聴いてみると、これはまさにこの時代、つまりモーツァルトの同時代の音楽にどっぷり浸かっているものでした。後半に出てくる嵐の描写にしても、ただにぎやかなだけで、もしかしたら「お祭り」の描写だと言われても信用する人がいるかも知れないほどです。それよりも驚いたのは、和やかこの上ない第1楽章の途中で、ハイドンの「四季」で最初に現れる合唱「Komm, holder Lenz!」そっくりのメロディが現れることです。この交響曲は1783年に作られ、1785年に出版されていますが、ハイドンがウィーンで「四季」を初演したのは1801年のことなのですよね。まあ、それこそハイドンもこのテキストと同じような音楽を作ったわけですから、同じ時代にあっては同じメロディになるのもありかな、という、シンプルなものなのですがね。
ベートーヴェンが交響曲を作るにあたって、このプランを借用したぐらいのことはあるかもしれませんが、音楽の作られ方は全く別のもの、そもそも時代様式が全然異なっていますからね。こちらの「嵐」は、もっとリアリティのあるものだったはず。

CD Artwork © Carus-Verlag
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by jurassic_oyaji | 2012-02-29 21:13 | オーケストラ | Comments(0)