おやぢの部屋2
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BACH/Saint John Passion
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Shannon Mercer(Sop), Matthew White(Alt)
Charles Daniels(Ten/Ev), Jaques-Olivier Chartier(Ten)
Tyler Duncan(Bas), Joshya Hopkins(Bas/Jes)
Monica Huggett/
Portland Baroque Orchestra, Cappella Romana
AVIE/AV 2236




最近は「ヨハネ」の新譜で、「普通」の新全集ではなく、オリジナルの稿に立ち返った演奏が増えてきています。「新全集」というのは、ゲッティンゲン・ヨハン・セバスティアン・バッハ研究所と、ライプツィヒ・バッハ・アルヒーフによって刊行(出版はベーレンライター社)されてきた「新バッハ全集」という、ある意味最高の権威を持つ批判校訂版の楽譜のことです。
ご存じのように、「ヨハネ」の場合、バッハの生前には4回演奏されたと言われていますが、そのたびに改訂が行われていますし、3回目と4回目の間に予定されていた演奏(結局、中止になりました)のために途中まで清書された「未完のスコア」まであって、「決定稿」というものが存在していません。なにしろ、「未完のスコア」では、1曲目から10曲目までにわたって細かいところで音符の変更や小節の追加、カットなどがあったのに、4回目の演奏ではその変更は反映されず、ほぼ以前と同じ形に戻っているのですからね。
結局、この全集は、バッハの生前には演奏されたことのない「未完のスコア」をメインにまとめられました。ですから、最近になって、バッハが実際に演奏した際に用意されたはずのものを、そのままの形で演奏しようという気運が高まってきたのは、ごく自然の流れなのでしょう。
ただ、そもそもそれぞれの楽譜は個々に「○○稿」としてきちんと楽譜が存在しているわけではありません。再演の度に昔の楽譜を引っ張り出してきて、それに改訂部分を書き込んで演奏した、というのが普通のやり方だったのです。ですから、「第1稿」などは楽器編成など確定されていない部分がありますし、「第3稿」では、差し替えたソースが紛失しているために、そもそも修復は不可能な状態になっています(そーすか?)。
そんな状態ですから、中には間違った情報なども広まってしまうことがあります。樋口隆一という、バッハ研究の第一人者とされている方でさえ、自身が指揮をして録音した「第2稿」のCDの解説の中で、「『未完のスコア』を助手を使って完成させたものが『第4稿』である」などというデタラメを披露しているのですからね。
1980年代にアメリカのオレゴン州ポートランドに創設されたピリオド楽器の演奏団体「ポートランド・バロック・オーケストラ」に、1995年に前任者のトン・コープマンの後を受けて音楽監督として就任したイギリスの卓越したピリオド・ヴァイオリニスト、モニカ・ハジェットも、この作品に対して意味不明のスタンスを取っていました。一応ジャケットには「1724 version」と明記されていますから、ここでは初演の時に使われた楽譜、すなわち「第1稿」を用いているのだと、誰しもが思うことでしょう。確かに、ブックレットではこの団体のオーボエ奏者、ゴンザロ・ルイスが、この「第1稿」を復元し、2004年にオランダ・バッハ協会のオルガニストとしてその「世界初録音」に参加したピーター・ディルクセンの主張を取り入れた、と述べていますので、普通だったら、そのディルクセンが作った楽譜を使っていると思うはずです。ところが、ここで「取り入れ」られているのは、「楽器編成からフルートがなくなっている」という点だけだったのです。楽譜自体は、なんと、新バッハ全集をそのまま使っているのです。つまり、1曲目から10曲目までは「1724 version」と謳いながら、実際は1739年頃に作られ、1724年当時は影も形もなかった楽譜を演奏しているのですよ。9曲目のソプラノのアリアは、したがって、1724年の楽器編成で、1739年に8小節カットされ、1小節追加されるなど大幅に変更されたものを演奏するという、とてもみっともないことをやっていることになりますね。
ソリストとリピエーノを合わせて、1パート3人の合唱がとても美しいコラールを聴かせてくれる、爽やかさ漲る演奏だというのに、こんなつまらないミスを犯しているのが残念です。

CD Artwork © Portland Baroque Orchestra
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by jurassic_oyaji | 2012-03-18 20:45 | 合唱 | Comments(0)