Ramin Karimloo
MASTERWORKS/88697861512
アンドリュー・ロイド=ウェッバーのミュージカル「オペラ座の怪人」が
25周年を迎えた記念に行われた、ロイヤル・アルバート・ホールでの公演は、すぐさま
BDやDVDが発売されましたし、
WOWOWでも放送されましたから、多くの人の目に触れたことでしょう。そして、それを体験した人たちは、タイトル・ロールを歌った、日本人にとっては全くの無名の新人の声に一様に魅了されてしまったのではないでしょうか。このイベントでは、アンコールとして歴代の「ファントム」役の歌手が声を競うコーナーがありましたが、その新人くんはそんな大御所たちをはるかに凌駕する素晴らしさだったのですからね。
彼の名前は、ラミン・カリムルー、イランで生まれた
33歳の若者です。すでにロンドンではミュージカル・シンガーとして確固たる地位を築いている彼が、このたびなんとポップス・テイストのソロ・アルバムをリリースしました。
とりあえず、ほとんど知られてはいないカリムルーの経歴がライナーにありましたので、それをご紹介しましょう。彼がイランで生まれたのは、
1979年の革命のゴタゴタの最中、まだ2ヶ月になったばかりだというのに、家族に連れられてローマ郊外の小さな町に逃げてこなければなりませんでした。さらに2年後には、彼らは今度はカナダに渡ります。そこで平穏な学校生活を送っていたカリムルーは、
12歳の時に学校行事として連れていかれたミュージカル「オペラ座の怪人」を観たとたん、すっかりハマってしまいました。それまでは「オペラ」なんて大嫌いだったというのに。そこで歌われていたファントムの声に感動し、その時点で彼は将来の道を決めたのだそうです。
数年後の彼は、ロックバンドのヴォーカルなどでステージに立つようにはなったものの、生活のために工場で働いたりウェイターをやったりしている毎日でした。そのとき偶然、クルーズ船の中で公演を行うツアー・カンパニーのオーディションを受けたところ採用となってしまいます。ただし、それは「ダンサー」としての採用だったのです。ところが、2週間後にはカンパニーの歌手が突然いなくなってしまいます。そこで、彼は歌手としてステージに立つチャンスを得ることになったのです。
カンパニーはクルーズの途中でロンドンに立ち寄りますが、そこが気に入ったカリムルーは、船を降りてそのままそこで暮らすことになります。そこではやはり偶然に良い先生に巡り会え、何度もオーディションのチャンスを与えられて、ウェスト・エンドでの多くのミュージカルに出演することになりました。もちろん、「オペラ座の怪人」の舞台にも立ち、ついに夢を叶えるのです。
これはまさに「シンデレラ・ボーイ」を絵に描いたような成功譚ではないでしょうか。しかし、先日「
25周年」の
BD、
DVDのリリースを機に来日して、「劇団四季」のイベントに出演したカリムルーは、日本でのファントム役の第一人者である高井さんに会えたことを非常に喜ぶという謙虚な一面も披露してくれました。
このアルバムでは、ファントムのナンバー「
Music of the Night」も歌われています。それは、高井さんのような洗練された声とは全く異なる、非常にパワフルな魅力をたたえたものでした。それでいて、高音のロングトーンなどは、誰にも真似の出来ないほどの澄んだ美しさを持っています。そこで思い出したのが、
10年ほど前に騒がれたことのある
ラッセル・ワトソンの声でした。彼は確か「七色の声」とか言われていたはずですが、カリムルーの場合はもっと沢山の「色」を持っていることは間違いありません。なんと言っても、彼の今後の「夢」は、ナッシュヴィルでカントリー・シンガーと共演することなのだそうですからね。確かに、アルバム中の彼の自作にはカントリーの「匂い」も感じられます。お酒の匂いじゃありませんよ(それは「
サントリー」)。
CD Artwork © Sony Music Entertainment