おやぢの部屋2
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CHILCOTT/Requiem
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Laurie Ashworth(Sop), Andrew Staples(Ten)
Johathan Vaughn(Org)
The Nash Ensemble
Matthew Owens/
Wells Cathedral Choir
HYPERION/CDA67650




いまや世界中で引っ張り凧の人気作曲家となったボブ・チルコットにとって、その将来を決めることになった幼い日の音楽体験は、いまでも大切な思い出となっていることでしょう。なかでも、1967年に、所属していたケンブリッジ・キングズカレッジ聖歌隊が、ウィルコックスという、ゴキブリみたいな名前(それは、「コックローチ」)の人の指揮でフォーレの「レクイエム」をEMIに録音した時のことは、一生忘れることは出来ないはずです。なにしろ、チルコット少年はそこで「Pie Jesu」のソロを歌ったのですからね。その5年前に同じEMIに録音され、名演と讃えられたクリュイタンス盤とは対照的なアプローチのこのレコードも、やはりもう一つの「名盤」として今に至るまで市場を賑わせています。
そんなフォーレの作品や、やはり同じ聖歌隊で歌ったデュリュフレの「レクイエム」は、しっかりチルコット少年にとっての「レクイエム」の理想像として、心の中に刻まれていたに違いありません。2010年に作られた彼の最初の「レクイエム」は、至る所にその2つの名曲の影が落ちていました。ただ、編成の中にオーケストラが入ることはありません。なんと言っても、アマチュアを含めて多くの団体に演奏してもらい、沢山の楽譜が売れて欲しいと願うのは、現代の作曲家にとっては当然の指向ですから、ここではオルガンをメインに、ティンパニと4つの管楽器(Fl, Ob, Cl, Hr)が加わるという手軽な編成となっています。しかし、チルコットの技を持ってすれば、こんなシンプルな編成からもとても色彩的な響きを導き出すことはわけもないことです。
曲の構成は、フォーレ、デュリュフレと同じように、ドラマティックな「Sequenz」の部分が省かれています。ただ、チルコットの場合は、そこに英語のテキストによる「Thou knowest, Lord」という曲が加わっています。これなどは、同世代のイギリスの作曲家、ジョン・ラッターなどと同じアイディアですね。いや、ラッターとはそれだけではなく、一度聴いただけで惹きつけられずにはいられないようなキャッチーな曲想なども共通したファクターとなっています。もっと言えば、やはり同世代の別のジャンルの作曲家、アンドリュー・ロイド=ウェッバーの「レクイエム」とも通じるものさえ、ここには確かに見ることができるのです。
そんな、「ラッター+ロイド=ウェッバー」のテイストが色濃く表れているのが、おそらくチルコットがもっとも力を入れたであろう「Pie Jesu」です。ここで、先ほどの木管楽器の加わったサウンドが非常に効果的に使われます。オルガンだけではなかなか表現できない「息づかい」の伴った柔らかなアンサンブルに乗って、ソプラノによって歌われるこの曲の、なんと美しいことでしょう。ここで歌っているアッシュワースという人は、他の部分ではかなりオペラティックな歌い方をしているのに、ここだけはしっかりビブラートを抑えてピュアな味わいを出しています。ソプラノよりは「ボーイソプラノ」のような響き、それは、もちろん作曲者自身がこの曲に求めたキャラクターに違いありません。
作品の冒頭を飾る「Introit & Kyrie」などは、「フォーレ+デュリュフレ」テイストのしっとりとした「短調」の音楽で始まります。そこには、確かな「悲しみ」が宿っているのを感じないわけにはいかないのは、この曲を作っている最中に、作曲者の姪御さんが23才の若さでこの世を去ったということと無関係ではないのでしょうね。
しかし、「Sanctus & Benedictus」あたりは、チルコットの得意技、シンコペーションと変拍子の嵐で、全く別の情感も沸き立たせてくれます。もう一人のソリストとして、バリトンではなくテノールが選ばれているのも、曲全体の爽やかさを演出しているようです。
合唱は、トレブルの少年少女合唱があくまで主役、成年男声はちょっと居心地が悪そうな感じです。正直、自分でこの曲を歌いたいとは思いません。

CD Artwork © Hyperion Records Ltd
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by jurassic_oyaji | 2012-03-26 21:04 | 合唱 | Comments(0)