おやぢの部屋2
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BACH/Matthäus-Passion
c0039487_2084574.jpgMark Padmore(Ev), Christian Gerhaher(Jes)
Camilla Tilling(Sop), Magdalena Kozená(Alt)
Topi Lehtipuu(Ten), Thomas Quasthoff(Bas)
Peter Sellars(Ritualisation)
Simon Rattle/
Rundfunkchor Berlin(by Simon Halsey)
Knaben des Staats-und Domchors Berlin(by Kai-Uwe Jirka)
Berliner Philharmoniker
BERLINER PHILHARMONIKER/BPH120012(BD)




ベルリン・フィルのネット配信サイト「デジタル・コンサートホール」から、「マタイ」がパッケージとしてリリースされました。
これはただのコンサートではなく、鬼才ピーター・セラーズの「演出」が加えられたもの、2010年3月に、まずザルツブルク・イースター音楽祭、さらに1ヶ月後にベルリンのフィルハーモニーで行われた最終日の模様が収録されています。
いや、確かにクレジットでは「演出」ではなく「Ritualisation 儀式化」とありますが、これはどう見てもちょっとクサめの「お芝居」、「儀式」と言われるほどの宗教性は、ここには存在してはいません。
ここでセラーズが行ったのは、「マタイ」に登場する福音書のテキストや、ピカンダーが書いたアリアの歌詞、さらにはコラールの歌詞までをも、誰にでも分かるように目に見えるものにすることでした。このBDには日本語の字幕も入っていますから、そのあたりはつぶさに分かります。第1部の終わりのレシタティーヴォで「弟子たちはみな逃げてしまった」と言えば、本当にステージから合唱団員がいなくなるのですからね。そして29番のコラールが、ホールの客席内に散らばった合唱によって歌われるのです。こういう、聴衆まで巻き込んだパフォーマンスのことは、普通は「シアターピース」と呼ぶのですが、セラーズにとってはこれが「儀式」だったのかもしれません。
ただ、登場人物の扱いでは、この作品を良く知っている人にとっては、最初は少し不可解な部分があるかもしれません。なんせ、エヴァンゲリストのパドモアが、やたらと演技のテンションが高いのですよね。実は、彼はただのナレーターではなく、「イエス」の役をも兼ねていたのです。本物のイエスであるゲルハーエルは、バルコニーから歌うだけという、ある種超越した人格、生身の演技は、パドモアが一身に引き受けているという構造だったのですね。ソリストのコジェナーに濃密にすり寄られたり、ユダ役の歌手と本当にキスをしたり(唇にですよ。舌も入れてました)、最後は実際に涙を流したりと、まさに迫真の演技です。同じように、やたら深刻ぶってアリアを歌っているコジェナーは、実は「マグダラのマリア」だったことが、しばらく見ていると分かります。いくら「マグダレーナ・コジェナー」だからって、これは出来過ぎですね。
さらに、楽器のオブリガートまでがその「お芝居」に参加します。なんと言ってもすごかったのが、クヴァストホフが歌った42番の「私にイエスを返してくれ!」というアリアでのソロ、樫本大進です。もちろん暗譜で、あの難しいパッセージを、クヴァストホフの目を睨みつけながら完璧に弾いていたのですからね。これは第2コーラスのアリアですが、第1コーラスでソロをしたスタブラヴァを差し置いて最初に名前がクレジットされているのも納得です。
とてもピリオド楽器とは思えないほどの強靭な音を聴かせてくれたヴィオラ・ダ・ガンバのヒレ・パールなどは、最後の合唱を楽器を演奏しながら一緒に歌っていましたね。
合唱も、もちろん全曲暗譜するだけではなく(後ろの方で楽譜を見てる人もいましたが、目をつぶりましょう)、全曲にわたってしっかり重要な「お芝居」を、誰一人として無駄な動きを見せないで真剣に演じているのですから、これは驚異的です。これだけのことを習得するには、いったいどのぐらいのリハーサルが必要だったのでしょうか。まさに「プロ」の仕事です。それだけのことをやりながら、本来の合唱がとても細やかな表情を見せた素晴らしいものだったのが、彼らの最大の功績だったのではないでしょうか。
いや、もしかしたら、これだけ音楽が雄弁に語っている時には、「芝居」がいかに邪魔なものになってしまうかを知らしめたことの方が、もっと大きな功績だったのかもしれません。

BD Artwork © Berlin Phil Media GmbH
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by jurassic_oyaji | 2012-04-05 20:10 | 合唱 | Comments(9)
Commented by ななしのごんべい at 2012-04-06 00:28 x
これは素晴らしそうなBDですね。
どのようにしてこれを「発見」されたのですか?
Commented by jurassic_oyaji at 2012-04-06 08:26
ななしのごんべいさん、こんにちは。
友人がFacebookで紹介していたので、すぐ入手しました。
ベルリン・フィルの公式サイトのショップで買えますよ(↓)。

https://shop.berliner-philharmoniker.de/matthaeus-passion.html
Commented by ななしのごんべい at 2012-04-06 23:56 x
トレーラーを見て良さそうだったので注文しました。
注文明細を見たらなぜか都道府県が抜けていましたが、郵便番号を記載したのでたぶん大丈夫でしょう。BDで29.75ユーロならば安いです。(というか一般に日本盤の価格は高好きます。
素晴らしい(そうな)作品をご紹介いただき有難うございました。
Commented by jurassic_oyaji at 2012-04-07 10:22
10日ぐらいで届くはずです。楽しんでください。
Commented by ななしのごんべい at 2012-04-21 23:14 x
途中で休みもとらずに一気に観ました。とても楽しめました。
コジェナーは歌も演技も存在感がありますね。クラシック作品の 5.1チャンネルは必要性に疑問を感じるものもありますが、このように後からも音声が聞こえる作品には効果的だと思いました。
素晴らしい作品を紹介していただき有難うございました。
Commented by jurassic_oyaji at 2012-04-22 21:04
気に入っていただけてさいわいです。
サラウンドでお聴きになったんですね。たしかに、ホール全体にコーラスが散らばったところなどは圧巻でしょうね。我が家では2チャンネルしか再生できないので、想像するだけです。
Commented by ななしのごんべい at 2012-04-23 00:04 x
CDや SACDを聴くオーディオシステムはそれなりのものを使用していますが、AVシステムにはあまり金をかけていません。基本的に映画を見る時のサラウンドシステムと割り切っているからです。
ただ今回のような優れた音楽作品を観ると、もっと良いシステム(特に良いスピーカー)が欲しくなってしまいます。
困ったものです(笑)。
Commented by ななしのごんべい at 2012-04-28 00:31 x
HMVのサイトでも取扱を開始したようです。
直接注文するよりかなりお高いですが、日本のサイトで購入できるようになったのは良いことだと思います。
Commented by jurassic_oyaji at 2012-04-28 22:31
そのようですね。
これが呼び水になって、ベルリン・フィルのネット配信の素材が、どんどんパッケージで出るようになるといいですね。