おやぢの部屋2
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BACH/Johannes-Passion
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Gerlinde Sämann(Sop), Petra Noskaiová(Alt)
Christoph Genz(Ten), Jans Hamann(Bas)
Sigiswald Kuijken/
La Pettite Bande
CHALLENGE/CC72545(hybrid SACD)




クイケンがバッハの宗教曲を演奏したものは、かつてはDHMとかACCENTから断片的に出ていたような気がしていましたが、最近ではACCENTでは全集を目指してのカンタータ、CHALLENGEでは受難曲などの大作、みたいな感じで精力的にリリースが展開されているようです。いずれにしても、ジャケットはなかなか「アート」っぽいもので貫かれていたはずだったものが、この「ヨハネ」では「アート」からは対極にあるはずのクイケン自身の「アー写」とは。ま、デ・フリエントみたいに、これが最近のこのレーベルの「方針」なのかもしれませんが。
ジャケット同様、最近の一連のバッハとは違った面を見せているのが、合唱のサイズです。「クイケン=各パート一人ずつ(『OVPP』という略号は、『3・11』同様、馴染めません)」という、このところ彼が頑なにとっていたフォーメーションが見事に崩れて、ここでは4人のソリストが合唱パートも歌う以外に、4人のリピエーノが加わっているのです。聴いてみると、「各パート1人」と「各パート2人」を適宜使い分けて、演奏に幅を持たせているようですね。コラールなどは「2人」体制で臨んで、音色的に落ち着きのある感じを出していますし、ポリフォニックな群衆の合唱では「1人」で、パートの線をくっきり出す、といったメリハリの付け方なのでしょう。
実は、クイケンの指揮による「ヨハネ」には、1987年にDHMに行った録音がありました。これと比較してみたら、そんな「1人」が「2人」に変わった程度の違いでは済まされない、ものすごい落差があるのですから、ちょっと驚いてしまいました。そもそも「ラ・プティット・バンド」とか言ってますが、今回の2011年録音盤と同じメンバーは、ジギスヴァルト・クイケン一人だけなのですからね。そして、合唱はなんと総勢18人、各パート4人から5人という「大人数」です。さらに客観的な数字を挙げると、前回は12219秒だった演奏時間が、10514秒と、とても同じ指揮者とは思えないほどの速さになっています。ここまでテンポが違うと、もう「解釈」そのものが全く別物のように感じられてしまいます。前回は合唱の柔らかな音色もあって、全体に慈しみ深い情感があふれていましたが、今回はなんとも攻撃的な「攻め」の表現が強く感じられてしまいます。まあ、レシタティーヴォの合唱あたりでそういう強い音楽を聴かせるのは良いとしても、それがコラールにまで及んでしまうと、ちょっと息苦しくなってしまいます。正直、今回のコラールは「呼吸」が出来ないほどのなにか即物的な薄っぺらさが漂っているような気がしてしまいます。
今回のSACDがリリースされる時のインフォメーションには、「独自のバージョン」といった、興味をそそられる文言が踊っていました。ただ、そこで紹介されたクイケンのコメント(こちらの翻訳)では、実際にどんな稿の選択を行っていたのかまでは語られてはいませんでした。現物を手にしてブックレットを見ると、このコメントと同じものが、クイケンへのインタビューで「まず、どのバージョンで録音したのか、聞かせてください」という質問に対する答えとして掲載されていました。ただ、こちらには最後にインフォの原文にも翻訳にもなかった「とにかく、みんなが演奏している『第1稿』にしたよ」という発言があるのですね。これが、質問に対する本当の答えなのでしょう。これだけ見ると、クイケンは「第1稿」で演奏しているように思えますが、実際に音を聴いてみると、それは確かに「みんなが演奏している」ものと同じでした。しかし、それは決して「第1稿」ではなく、「新バッハ全集」なんですよね。
つまり、クイケンともあろう人が「第1稿=新バッハ全集」というデマを信じているのですよ。そういえば、DHM盤でも、「Vollständige Fassung(1724)」と、「Neue Ausgabe sämtlicher Werke」という全く別物のクレジットが併記されていましたね。

SACD Artwork © Challenge Records Int.
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by jurassic_oyaji | 2012-04-07 23:48 | 合唱 | Comments(0)