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MOZART/Flute Quartets, Kraus/Flute Quintett
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Matthias Ziegler(Fl)
Casal Quartett
NOVALIS/CD 150 96-2




モーツァルトの「フルート四重奏曲」などを収録したCDですが、あの有名な4曲の四重奏曲は入っていません。ここで演奏されているのは、モーツァルトの別のジャンルの作品、「4手のピアノのためのソナタ」K 497と、ピアノ、クラリネット、ヴィオラのための「ケーゲルシュタット・トリオ」K 498をフルート四重奏に編曲したものと、モーツァルトの同時代(生年は同じで、没年もモーツァルトの1年後)の作曲家、ヨーゼフ・マルティン・クラウスが作った「フルート五重奏曲」の3曲という、非常に珍しい作品たちです。これらは、果たして「フルート四重奏曲第5番」や「第6番」となりうるのでしょうか。
モーツァルトの曲は、あのプレイエルが編曲したものです。なんでも、ここでフルートを演奏しているスイスのフルーティスト、マティアス・ツィーグラーが先生から譲り受けた楽譜の中に、そんなものがあったそうなのですね。その先生は、北イタリアの古本屋で見つけたのだとか。もちろん、プレイエルは彼の会社で出版するために自らこの編曲を行いました。その際には、やはり彼のビジネスマンとしてのセンスから、「演奏して楽しい」ように原曲を少しいじっています。要するに、「売れる」編曲を目指したのですね。こういうことは、この時代の編曲にはよくあることです。あのベートーヴェンでさえ、自作を木管合奏に編曲したときには、今の感覚では考えられないようなカットを、かつては行っていたのですからね。
しかし、これを見たツィーグラーは、そのような「改作」は許せなかったのでしょうね。なんと、そのカットされた小節を、今度はとある作曲家との共同作業ののちに「修復」してしまったのだそうです。でも、これはちょっと違うのではないか、という気がするのですが、どうでしょう。いくらカットが施されているとは言っても、それはその時代のプレイエルの考えが反映された編曲なのですから、それはそれでそのまま演奏した方が、より「オーセンティック」な態度なのでは、と思うのですがね。というか、そんな「修復」を加えてしまっては、そもそも「プレイエル編曲」というクレジットが意味のないものになってしまうのに。
かくして、モーツァルトの同時代の有名な作曲家が、彼の作品をどのように考えていたかを知ることができるはずの貴重な編曲が、ツィーグラーたちの「おせっかい」で、別物に変わってしまいました。そう、これは「修復」などという立派なものではなく、悪意に満ちた「改竄」にほかなりません。いっそ、「ツィーグラー編曲」としてくれれば、何の問題もなかったのでしょうが、名前を使われたプレイエルこそ、いい迷惑です。
そのような「あたりまえ」の編曲を施されたフルート四重奏曲は、なんだかあんまり楽しそうではありませんでした。何よりも、ソロ楽器としてのフルートが全然前に出てこないのです。
それに比べると、スウェーデンのグスタフ三世の宮廷楽長を務めたことから「スウェーデンのモーツァルト」と呼ばれることもあるクラウスの五重奏曲は、まさにフルートの魅力をふんだんに味わえるとことん楽しい曲です。まず、ちょっとした工夫があって、曲が始まっても弦楽四重奏が長いイントロを演奏する間は、フルートは全く聴こえてきません。いい加減じれてきたところで、やおらフルートの登場、あとはもういかにもフルートならではの軽やかなソロのパッセージを聴かせてくれる、という作り方です。こんな「憎い」演出はモーツァルトだってやっていませんよ。
ただ、次のゆっくりした楽章が、モーツァルトほどの深みがないのは、まあ仕方のないことでしょう。その代わり、無難な変奏で楽しませてくれています。最後の楽章は、やはり屈託のない明るい音楽で終わります。

CD Artwork © Audio Video Communications AG
by jurassic_oyaji | 2012-05-23 20:11 | フルート | Comments(0)