おやぢの部屋2
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TÜÜR/Awakening
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Daniel Reuss/
Estonian Philharmonic Chamber Choir
Sinfonietta Riga
ONDINE/ODE 1183-2




エストニア・フィルハーモニック室内合唱団は、1981年にトヌ・カリユステによって創立されましたが、それから20年間、彼は芸術監督、首席指揮者として多くのコンサートやレコーディングを行っていました。メンバーにデブはいません(それは、「エステ・・合唱団」)。アルバムはECMCARUSなどのレーベルから数多くリリースされていますが、初期のビロード革命以前、まだ「ソ連」時代にはMELODIYAに録音を行っていました。
2001年にポール・ヒリアーが彼の後継者になってからは、レーベルはHARMONIA MUNDI USAに変わりました。合唱団ではなく、指揮者がレーベルを選ぶというのは、オーケストラと同じ力関係なのでしょう。この、現代合唱界のスーパースターを迎えて、この合唱団によるアルバムのリリースは、より活発なものとなったのです。
2008年にそのあとを継いだのは、やはり世界的な合唱指揮者であるダニエル・ロイスでしたが、ヒリアーほどの活発なレコーディング活動は見られないような気がします。最新のアルバムは、フィンランドのONDINE、最近NAXOSの傘下に入ってしまうなど、弱小感は否めないレーベルです。
しかし、このアルバムは、何か未来が見えてくるような手ごたえのあるものでした。取り上げられた作曲家は、エストニアの中堅、エリッキ=スヴェン・トゥールです。1959年生まれ、今ではエストニアを代表する作曲家ですが、彼のキャリアのスタートはクラシックではなく、「In Spe」というエストニアの「プログレ」バンドのリーダーという、ロック・ミュージシャンとしてのものでした。しかし、彼が影響を受けたELPやイエスのような多くの「プログレ」のように、その作品はクラシックにベースを求めたものでしたから、すでにその時点で「現代作曲家」ではあったわけです。彼の場合、バンド在籍中から正規の音楽教育を受け始めることになります。ちなみに、このバンドの1982年のファースト・アルバムはMELODIYAからのLPですし、「作曲家」としてエストニア・フィルハーモニック室内合唱団と共演した1988年のLPも、やはりMELODIYAでした。
今回の収録曲は全部で3曲。まずは、この合唱団によって委嘱された、19分の間中ア・カペラの合唱が休みなく続くという「The Wanderer's Evening Song」です。最初にいかにも「前衛的」なハーモニーで度肝を抜く、というのが、この作曲家の趣味なのでしょう。それはまさに、半世紀ほど前の「前衛」の名残を「現代」に昇華したもののように響きます。そして、まるでトルミスのような、民族的な素材を用いた息の長いフレーズの音楽が現れます。それを彩る和声の美しいこと、もちろん、そこにはまともな長三和音などは現れるわけもなく、色彩的なテンション・コードやクラスターが満載なのは、やはり「元ロッカー」の意地なのかもしれません。しばらくすると、今度はビートが前面に出てくる音楽に変わります。このあたりの扱いも、ただの「クラシック」とは一味違う「本物」のビートが感じられるものです。
唯一のインスト物は、弦楽合奏のための「Insula deserta(砂の島)」です。これも、ミニマル風のリズミカルな部分と、クラスターなどがべったり塗り込められた和声的な部分が交互に現れる中で、印象的な同じテーマが見え隠れするという、適度にとがった聴きやすい曲です。
そして、合唱とフル・オーケストラのための30分以上の大作が、タイトル曲の「Awakening(覚醒)」です。これが初録音の2011年の作品、やはり、オーケストラのチューニングのようなある種「偶然性」を装ったイントロで刺激を与えてくれたあとは、リズミカルな部分と包み込むようなソフトなサウンドが、円熟の書法を見せてくれます。ここでの合唱も、ベースは民族的なテイストです。
もしかしたら、ヘタな「クラシック」の作曲家よりも、「元ロッカー」の方が、音楽の持つ力を信じられるのではないか、このたくましい、それでいてキャッチーな作品を聴いていると、そんな思いに駆られてしまいます。

CD Artwork © Ondine Oy
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by jurassic_oyaji | 2012-05-29 23:13 | 合唱 | Comments(0)