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音楽のためのドイツ語事典
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市川克明著
オンキョウパブリッシュ刊
ISBN978-4-87225-342-9



クラシック音楽を聴いたり演奏したりするときには、ドイツ語は欠かせません。なんといっても、今普通に聴かれている「クラシック」の大半はドイツ、あるいはオーストリアに関係した人たちが作ったものなのですからね。「いや、そうではない、クラシック音楽の本当の中心はイタリアなのだ」とおっしゃる方もいらっしゃいますが、残念ながら現在のクラシック界におけるドイツの優位性は確固たるものです。
「だって、楽譜に書かれている言葉はみんなイタリア語じゃないですか」というのが、イタリア擁護の人たちのよりどころです。確かに、どの楽譜を見ても「Allegro」や「Lent」といったイタリア語はいくらでも見つかりますが、「Schnell」とか「Langsam」なんてドイツ語は、あまり見かけませんね。やっぱり、「本場」はイタリアだったんですね。
でも、ご安心ください。そんな音楽用語をイタリア語からドイツ語に変えて、果敢に「ドイツこそ音楽の中心だ」と主張した作曲家がいないわけではありません。そんなことをしたのはどいつだ、というと、おそらくシューマンあたりが最初だったのではないでしょうか。そして、ワーグナーやブルックナーはほとんどドイツ語で表記を行っています(なぜか、同じ時代のブラームスは、かたくなにイタリア語にこだわっていましたが)。もちろん、もう少し後の時代のマーラーでは、スコアの中はドイツ語で埋められています。
マーラーやブルックナーの場合は、単に曲の頭にテンポや曲想を表記するだけではなく、楽譜には様々な場面で細かく演奏上の指示が書き込まれています。例えば、「hervortretend」という単語などは、どちらの作曲家の楽譜にも頻繁に現れます。ですから、マーラーやブルックナーを演奏する人は、まずこの意味を独和辞典で調べなければなりません。そこには「突出して」というような日本語があるはずですが、それが音楽の表現としてはどのようなことを指し示すかは、ある程度の音楽的な素養がないことには、正しくは理解できないはずです。
そんな時に、間違いなく役立ちそうな本が出版されました。著者の市川さんという方は初めて知ったのですが、特にドイツ語の専門家というわけではなく、本職はおそらくホルン奏者、ドイツに留学した時に自らの経験で身に着けたという、まさに「すぐに役立つ」ドイツ語を解説してくれています。タイトルが「辞典」ではなく「事典」となっている点にも注目してください。ここでは単に単語の意味を説くだけではなく、音楽理論から始まって、個々の楽器に特有の言い方まで、間違いなく音楽家でなければ決してわからないような視点から、音楽全般にわたって事細かに語ってくれています。
特に感動的だったのは、「Orchester」という、非常に頻繁に使っている単語の発音についての記述です。この本ではすべての単語に「カタカナとひらがなで」発音が示されているのですが、この言葉は「オァケスタァ」となっていました(小文字の「ァ」は巻き舌でしょう)。今まで、この表記に従えば「オァヒェスタァ」だとばかり思っていたのに、これはショックでした。まさに「目から鱗」です。これは、ミュンヘン(München)を「ミュンケン」と呼ぶようなことになるのですが、必ずしも法則通りに発音するとは限らない言葉もあったのですね。
ただ、カラー写真満載でなかなか見ごたえのあるこの本なのですが、アートワークやレイアウトがなんともシロートっぽいのが気になります。写真がどういう意味を持ってそこに掲載されているのかよくわからない箇所は数知れず、エクセルをそのまま貼り付けたような太い罫線の表は見ていて苛立ってきます。要は「本」として美しくないのですね。それに気づいてしまうと、内容自体も著者の思い込みの押しつけのようなところがだんだん鼻についてきます。中でも、さっきの「hervortretend」が載ってないのは、致命的です。

Book Artwork © Onkyo Publish Co., Ltd.
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by jurassic_oyaji | 2012-07-08 19:45 | 書籍 | Comments(0)