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GERSHWIN/Works for Piano & Orchestra
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Freddy Kempf(Pf)
Andrew Litton/
Bergen Philharmonic Orchestra
BIS/SACD-1940(hybrid SACD)




毎回刺激的なアルバムを提供してくれるリットンとベルゲン・フィル、今回はピアノにフレディ・ケンプを迎えてガーシュウィンのピアノとオーケストラのための作品4曲をすべて録音しています。その4曲とは、有名な「ラプソディ・イン・ブルー」(1924)、ピアノ協奏曲 in F1925)、「セカンド・ラプソディ」(1931)、そして「『アイ・ガット・リズム』による変奏曲」(1934)です。「本業」のミュージカルは50曲以上、歌は500曲以上も作っているガーシュウィンですが、「クラシック」のこの編成の作品はこれしかありません。最初と最後の曲は、こちらでも聴けましたね。
「ラプソディ・イン・ブルー」は、そのHM盤と同じ、グローフェが最初に作ったバージョンで演奏されています。つまり、ポール・ホワイトマンのバンドの編成が前提ですから、弦楽器はヴァイオリンだけ、木管楽器などは3人の「マルチリード」が、クラリネットからサックス、ファゴットまで持ち替えて演奏するように書かれています。ベルゲン・フィルでは、おそらく専門の奏者が演奏したのでしょうね。ただ、クラリネットのソロを担当した人だけはきちんと名前がクレジットされています。ハーコン・ニルセンというその人は、ここではクラシック奏者にはあるまじき「崩れた」演奏を聴かせてくれていますから、うれしくなってしまいます。もしやエキストラ、と思ってしまうほどの弾けよう、でもメンバー表にはしっかり副首席奏者として名前が載っています。人材豊富な、ベルゲン・フィルでした。
ピアノ協奏曲も、作曲家が本気になって「クラシック」を目指していたことなどはお構いなしに、ひたすらノリの良い「バンド」の感覚で迫ります。こういうアプローチで聴くと、やはりガーシュウィンは一生「クラシック」を書くことはなかった作曲家であることがよくわかります。どんなフレーズもひたすらキャッチー、まずは聴く人をハッピーにさせようという骨の髄までしみこんだエンタテインメントがむき出しになっています。中でも、終楽章はまさにノリノリ、圧倒的なドライヴ感で迫ります。こんな「協奏曲」を聴かされたら、堅苦しい「クラシック」のコンサートでもお構いなしに、立ち上がって踊りだしたくなってしまうかもしれません。
「セカンド・ラプソディ」というのは、あまり聴く機会のない作品かもしれません。タイトルは、いかにも7年前の大ヒットをもう一度、みたいなさもしい根性が感じられてしまいますが、作品そのものは都会の喧騒を描いた映画のサントラ用に作られたものです。ガーシュウィンは、「マンハッタン・ラプソディ」とか「ラプソディ・イン・リベット」というタイトルを考えていたそうですね。「リベット」というのはダライ・ラマではなく(それは「チベット」)、高層ビルの工事で使われる「鋲」のことです。最初のモチーフが「鋲打ち」のように聴こえるのだとか。いかにもこの時代の映画然とした、ユルいサウンドがノスタルジーを誘いますが、逆にそれ以上のインパクトを与えられないあたりが、いまいちマイナーに終わっている原因なのでしょうか。
「アイ・ガット・リズム」は、もちろんテーマがミュージカル・ナンバーですが、それを変奏させるときのガーシュウィンの手法が、しっかり「クラシカル」を目指していることが、なぜかこの演奏では伝わってきます。それは、HM盤を聴いたときには感じられなかったことなのですが、その違いはなんといってもケンプの強靭なタッチから生まれる意志の強さでしょう。
それと同時に、ソリストやオーケストラのメンバーひとりひとりの「熱気」が、完璧に伝わってくる、いつものようなものすごい録音からもそんな印象が与えられたのかもしれません。BISSACDには、まず裏切られることがないことを、さらに確認です。

SACD Artwork © BIS Records AB
by jurassic_oyaji | 2012-07-12 20:28 | オーケストラ | Comments(0)