おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ | ログイン
WEBER/Wind Concertos
WEBER/Wind Concertos_c0039487_21112316.jpg
Maximiliano Martín(Cl)
Peter Whelan(Fg)
Alec Frank-Gemill(Hr)
Alexander Janiczek/
Scottich Chamber Orchestra
LINN/CKD 409(hybrid SACD)




にも書きましたが、ジャケットの絵が風に流される難破船を描いているからと言って、このアルバムには「風の協奏曲」が入っているわけではありません。そもそも、風の協奏曲って、いったい・・・。
もちろん、「Wind」というのは「管楽器」のことですね。正確には「Wind Instrument」。いや、そんなことは、ジャケットのデザイナーもご存じだったのでしょう。ですから、この絵はもっと、例えば作品の内面を端的に表しているものとして使っているのかもしれませんね。いかにもドイツ・ロマン派の深刻な情感みたいなものを表現している、とか。
しかし、そんなイメージをもってこのアルバムを聴いたとしたら、おそらく「ちょっと違うな」と感じられるかもしれません。ウェーバーが作った管楽器のための協奏曲には、もっと明るく伸び伸びとしたテイストが漂っているのですからね。それを知ったのは、こちらのジャック・ランスロやポール・オンニュといったフランスの名手たちが、ドイツのバンベルク交響楽団のバッキングで演奏している大昔のERATOのレコードでした。
WEBER/Wind Concertos_c0039487_21131380.jpg

ここに入っているクラリネット、ファゴット、そしてホルンのための協奏曲(コンチェルト)あるいは小協奏曲(コンチェルティーノ)は、どの曲もとてもキャッチーなメロディであふれていました。特に、クラリネット協奏曲の最後のロンドのテーマは、一度聴いたら忘れられない魅力を持ったものとして、長い間心の奥底にしまわれていました。
今はもうそのLPは手元にはなくなっていますが、こんな最新録音を見つけて、懐かしくなってしまいました。LINNの最高の音質で、かつての思い出は蘇ってくれるでしょうか。
クラリネット協奏曲でソロを吹いているのは、スコットランド室内管の首席奏者、マクシミリアン・マルティーンです。スペイン出身の彼の音は、もしかしたら「クラリネット」に普通持たれているイメージをかなり変えてしまうものなのではないでしょうか。ビブラートこそかかっていませんが、その音色はあくまでソフト、そして、この楽器特有のレジスターの切り替えによる音色の変化に殆ど気付かされないという驚くべきものです。こんな上品な音のするクラリネットの低音なんて、聴いたことがありませんよ。もちろん、テクニックも完璧です。難しいフレーズを軽くクリアするのは当たり前のことですが、この人の場合、そこに天性の華やかさが加わります。それは、一歩間違えればアンサンブルの破綻を導きかねないほどの危うさをも秘めていますが、だからこそ、まさに「腐る直前」の熟れに熟れた果実のような豊穣さを味わえるのでしょう。
長い年月を経て出会ったクラリネット協奏曲は、とても新鮮で、ウェーバーという作曲家の魅力を改めて伝えてくれるものでした。そして、第3楽章のロンドは、さらに美しいものとして思い出に上書きをしてくれました。
ファゴット協奏曲を吹いているピーター・ウェランは、マルティーンとは対照的に堅実な音楽を聴かせてくれました。それは、1楽章あたりではちょっと作為的な面も感じられてしまいますが、全曲を聴き終れば、やはり軽快な爽やかさが残る素敵な演奏でした。
ホルンは、若手のアレック・フランク=ゲミル、この人も、完璧なテクニックと音楽性で、聴きどころ満載です。変奏曲である第2楽章での目の覚めるような吹きっぷりには、感服します。最後にあるちょっとしたカデンツで、「重音」のようなものを出していたのは、彼のアイディアなのでしょうか。
オーケストラはコンサートマスターが中心になって、自発的な合奏を繰り広げています。かつてのバンベルクのような重苦しさのない、とても風通しの良い演奏が生まれています。それがもしかしたら「風」?
こんな素敵な管楽器の協奏曲を作ったウェーバーが、フルートのための協奏曲を残してくれなかったなんて。

SACD Artwork © Linn Records
by jurassic_oyaji | 2012-08-29 21:13 | オーケストラ | Comments(0)