おやぢの部屋2
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MOZART/Così fan tutte






Peter Sellars(Dir)
Craig Smith/
Arnord-Schönberg-Chor
Wiener Symphoniker
DECCA/071 4139(DVD)



1990年頃に制作されて殆ど「大騒ぎ」状態になった、ピーター・セラーズの演出によるモーツァルトのダ・ポンテ三部作は、以前LDで発売されていましたが、いつの間にか市場からは姿を消していました。これらの映像を見てみたいと思い、長年DVD化を心待ちにしていた人は多かったはずです。その願いがやっと叶って、晴れて全作品のボックスセットがリリースになりました。これは、よく売れるでしょうね(ベスト・セラーズって)。もちろん個別の分売もありますが、ここは女房を質に入れてでも(あ、もちろんこれは単なる比喩ですよ)全曲買いそろえて、この奇才がモーツァルト/ダ・ポンテから導き出したグロテスクなまでのメッセージを、心ゆくまで享受しようではありませんか。
まずは、最近何かとはまっている「コシ」です。舞台を現代に置き換えたセラーズのプラン、ここでは舞台は海辺にあるデスピーナの名前を冠したダイナーです。そう、良くアメリカ映画などに出てくるコーヒーや手作りのパイ、あるいはハンバーガーなどを食べさせてくれる手軽なレストランであるダイナー(トイレのドアに、モーツァルトと、コンスタンツェのシルエットがあるのが、おしゃれ)、オリジナルでは「小間使い」だったデスピーナは、そこのウェイトレスという設定になっています。そして、なぜかドン・アルフォンソはデスピーナの恋人で、このダイナーのオーナーになっているのです。そうなると、お屋敷のお嬢さんだったフィオルディリージとドラベッラは、このダイナーの常連客ということにならなければなりません。ですから、彼女らのフィアンセたちも、「変身」して現れる時には「アルバニアの貴族」ではなく、海辺にたむろしているパンク野郎ぐらいにならないことには、収拾がつかなくなってしまいます。
とりあえず、この弾けきった設定だけでも、充分に楽しむことが出来ます。何しろ、グリエルモとフェルランドが女の気を引こうと飲む「毒」は、店の中にあったケチャップとマスタード、そして、それを治療しに来る「お医者様」は、なんとシャーリー・マクレーン(ドン・アルフォンソが、そういうカンペを出すのです)というのですから。彼女が使うバッテリーには「ダイ・ハード」の文字があり、ブースター・ケーブルでつながれる先は、男どもの股間という、ちょっとしたくすぐりも交えられていますし。序曲の部分で映される海辺では、「ガンズ・ン・ローゼズ」のロゴが入ったTシャツを着た若者が見られるように、ここで敢えてその時代でなければ通用しないようなネタを仕込んでいるのが、セラーズのセンスなのでしょう。
しかし、そのような表面的なファッションにただ驚いているだけでは、セラーズの仕掛けた巧妙な罠には気づかないかもしれません。彼のプランにしたがって動いている人物を見ていると、最初男どもは、ただ変装して「同じ」相手を誘惑してみて、その結果どうなるかを試したかっただけなのが分かります。しかし、女どもは、そんな思惑を超えて、「別の」男に惚れてしまうという、予想外の結果が待っていました。ほんのいたずらで仕掛けたことが、冗談では済まないような展開になってしまったのです。ですから、「結婚式」の場では花嫁たちは本気でうろたえるしかなく、そのあとには、デスピーナたちのカップルをも巻き込んだ大パニックに陥るしか、道はなかったのです。「喜劇」で終わるはずのものを「悲劇」に変えてしまった、これはセラーズのとてつもない着眼点、そこからは、なぜ現代に設定を移さなければならなかったかという必然性までも見えては来ないでしょうか。
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by jurassic_oyaji | 2005-05-21 17:39 | オペラ | Comments(0)