おやぢの部屋2
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BEETHOVEN/The Symphonies
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Frans Brüggen/
Orchestra of the Eighteenth Century
GLOSSA/GCDSA 921116(hybrid SACD)




ブリュッヘンと18世紀オーケストラとの最新のベートーヴェン交響曲全集が登場しました。以前PHILIPSに録音したのが20年以上前のことですから、久しぶりゅっへんの再録音です。この間、彼らは、定期的にツアーを行っており、もちろんベートーヴェンも日常的に演奏していたわけですが、このあたりで一区切り、ということなのでしょう。ここでは、2011年の10月に、ロッテルダムのコンサートホール、「デ・ドゥーレン」で行われたベートーヴェンの交響曲の連続演奏会がまとめて収録されています。
録音スタッフ自体は、レーベルが変わってもほとんど同じメンバーのようですし、前回もライブ録音だったのですが、今回の音はPHILIPS盤とはかなり違ったものになっています。それは、残響が多く、音の重心が低くなって、とても広がりが感じられるような音でした。そんな中では、ティンパニの音がとても強調されて聴こえてきます。いや、ほとんどティンパニが音楽づくりを支配しているのでは、と思われるほどの迫力です。
ブリュッヘンは、そんな響きを十分に考慮したうえで、まさに円熟の境地ともいえる「巨大な」音楽を作り上げています。手元には「6番」と「8番」のPHILIPS盤があったので比べてみると、「8番」の第1楽章などはまるで別な人が演奏しているように感じられてしまいます。基本のテンポはそんなに変わらないのに、途中での「伸び縮み」がとても大きいのですね。
全体の印象としては、普通はあっさり演奏されることの多い偶数番号の曲が、とても重さを秘めたものになっている半面、奇数番号の曲があっさりしているようでした。「3番」などは、肩の力がすっかり抜けたような感じがしてしまいます。しかし、逆にそんな中から、じわじわと迫ってくる力があるのですから、油断はできません。
「9番」の場合は、特別です。これはもう第1楽章からとてつもない力がみなぎっていて、楽章の最後に向けての求心力には異様なほどのエネルギーが感じられます。もうこれだけでおなかがいっぱいになってしまいそう、ただ、第3楽章はあまりベタベタしない、ノン・ビブラートだからこその細やかな表情づけなのがありがたいところです。終楽章の頭などは、ほとんど混沌の世界、そんな中から現れる低弦のレシタティーヴォは、なんとも不気味な歌い方なのは、同じ形で後にバリトン・ソロが合唱を呼び出すための伏線でしょうか。なんと、その合唱の「Freude!」という歌い出しは、全く音程のない「叫び」だったのですからね。こんな演奏は、初めて聴きました(旧録音ではどうだったのでしょう)。
おまけとして、日本向けのドキュメンタリーDVDが入っていました。きちんと日本語の字幕まで入っていて(ものすごい誤訳がありました)、この演奏会のリハーサルや本番などの模様と、ブリュッヘンへのインタビューを見ることができます。そこでブリュッヘンが使っている楽譜を見たら、それはブライトコプフの旧版でした。どうやら、彼はエディションに関してはそれほどこだわってはいないようですね。確かに、ベーレンライター版などで劇的に変わってしまった箇所は、ほとんど直してはいませんでした。ただ、本当に重要な変更(例えばこちら)は、適宜直して使っているようでした。
このDVDでは、「6番」の第2楽章の最後の木管楽器によるカデンツァで、フルート奏者がしごかれているリハーサルの場面が登場します。129小節と130小節をまたぐ「ファソファ」という音型の「ソ」の音を、ブリュッヘンはたっぷりと歌ってほしいのに、リサ・ベズノシウクはいとも素っ気なく吹いているのですね。一旦は直るのですが、本番はうまくいかなかったため、結局あとでその部分だけ「録り直し」になっていました。彼女はクリストファー・ホグウッドと一緒に演奏をしていた人ですから、このブリュッヘンの大きな音楽には戸惑いを感じてしまったのかもしれませんね。

SACD Artwork © note I music GmbH
by jurassic_oyaji | 2012-09-24 19:55 | オーケストラ | Comments(0)