おやぢの部屋2
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LIGETI/Le Grand Macabre
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Chris Merritt(Piet the Pot), Inés Moraleda(Amando)
Ana Puche(Amanda), Werner van Mechelen(Nekrotzar)
Frode Olsen(Astradamors), Ning Liang(Mescallina)
Barbara Hannigan(Venus), Brian Asawa(Prince Go-Go)
La Fura dels Baus(Dir)
Michael Boder/
Symphony Orchestra and Chorus of the Gran Teatre del Liceu
ARTHAUS/108 058(BD)




リゲティが1977年に完成させた彼の唯一のオペラ「ル・グラン・マカーブル」は、そもそもはそれまでの伝統的な「オペラ」という概念に対してのアンチテーゼとして作られたものでした。当時の「現代音楽」界では、オペラのような演奏形態はもはや同時代の音楽とは相いれないものとなっており、リゲティは、そのような旧態依然としたものへの揶揄を込めたパロディを作り上げたということなのです。言ってみれば、オペラを実際に上演して、そのばかばかしさをあざ笑うという、極めて屈折した動機に基づく作品だったわけですね。なんといっても、前奏曲が自動車のクラクションだけで演奏されるという、人を食ったものなのですからね。
この作品の録音は、初演の指揮者エルガー・ハワースによる1987年のウィーン上演のライブ(WERGO)と、1998年ザルツブルク音楽祭でのピーター・セラーズの演出、エサ・ペッカ・サロネンの指揮によるライブ(SONY)が知られています。なんでも、2009年には、日本初演も行われているそうですね。
そして、ついに映像ソフトの登場です。2011年にバルセロナのリセウ大劇場で行われた上演が収録されています。パッケージには何の表示がありませんが、しっかり日本語の字幕が入っていますから、何のストレスもなく、この荒唐無稽の「オペラ」を「鑑賞」することが出来ますよ。
まず、映像では一人の巨乳の女性がキッチンでファーストフードをがつがつ食べているシーンが出てきます。会場では、紗幕に投影したのでしょうか。幕が開くと、その女性そっくりの巨大な張りぼてが全裸で横たわっています。それは、例えば目とか口、さらには乳輪のあたりが穴になっていて、そこからキャストが出入りできるようになっています。まるで、ヒエロニムス・ボスの絵画に出てくるような不気味なセットです。それだけではなく、その張りぼてにはいろいろな仕掛けがあって、ある時にはこのジャケットにあるように、中に仕組んである骨格が透けて見えるようにもなります。さらにいやらしいことに、これ全体が回るようになっていて、後ろの「穴」(もしくは「溝」、なんだかわかりますね)からも、堂々とみんなが出入りできるようになっているのですよ。
最初に登場するのは、狂言回しの酔っ払いピート。そのあとに出てくるのが、アマンドとアマンダというカップルです。パパゲーノとパパゲーナみたいなものでしょうか。そして、この二人の衣装が、筋肉の人体模型というのがすごいですね。二人はピートの目の前で「筋」を絡ませながらいちゃいちゃし始めますが、それはもうエロの極致です。そのうち、「行為」に及ぶのですが、アマンドが「突く」のに合わせてアマンダがよがり声をあげるのが、しっかり「歌」になっているのですからたまりません。こんな感じで、決して「お子様には見せられない」シーンが延々と続きます。メスカリーナの衣装もすごいですよ。
これは、世界が終わってしまうという物語のようなのですが、そこで登場するゾンビたちが、「スリラー」を踊ったりという「引用」はあちこちにみられます。いや、実は音楽自体が、リゲティの自作を含めての「引用」の塊なのですが、最後の「パッサカリア」が、ベートーヴェンの交響曲第3番のフィナーレの引用だ、などといわれても戸惑うばかりです。
作曲家の意思とは裏腹に、オペラは今でも上演され続けていますし、あろうことか「アンチ・オペラ」であったはずのこの作品までもが、しっかりと世界中のオペラハウスのレパートリーに入ってしまっているのですから、なんとも皮肉なものです。「オペラ」を壊そうとした企ては、その「手段」だけが肥大された形で、まんまと「オペラ」に取り込まれてしまいました。「オペラ」とは、それほどにしたたかなものだったのです。したたか(しかたが)ありません。

BD Artwork © Arthaus Musik GmbH
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by jurassic_oyaji | 2012-10-14 20:39 | オペラ | Comments(0)