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オーケストラは未来をつくる/マイケル・ティルソン・トーマスとサンフランシスコ交響楽団の挑戦
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潮博恵著
アルテスパブリッシング刊
ISBN978-4-903951-59-1



最近、マイケル・ティルソン・トーマス(MTT)とサンフランシスコ交響楽団が録音したマーラー全集が注目を集めています。そんな時に見つけたのが、この本です。これを読んで、この指揮者とオーケストラが今まで思っていたのよりはるかに先を行った高みに達していることを知りました。
著者は、音大は出ていますが、現在は音楽の演奏やビジネスとは全く関係のない仕事に就いている一介の愛好家なのだそうです。6年ほど前にたまたまCDで聴いた彼らの演奏に感銘を受け、その足でサンフランシスコに渡り、実際の演奏を体験してその感銘を確固たるものにし、彼らを応援するウェブサイトを立ち上げました。それが人の目に触れ、この出版が実現したということなのですね。
そのような、愛情あふれる筆致からは、このオーケストラの現在の多方面での活躍がつぶさに語られます。このあたりの、アメリカのオーケストラ特有の組織の話などは、日本のオーケストラにとっても大いに参考になることでしょう。それは、現在の音楽監督のMTTの代になって大きく花開くわけですが、実はその2代前の音楽監督、エド・デ・ワールトの時代からの息の長い積み重ねの賜物だということも語られます。ずいぶん昔からなんですね(それは「エド時代」)。
まあ、そのあたり、オーケストラの経営や、教育プログラムなどに関しては、しかるべき人に読んでいただいてそれぞれの分野で役に立てていただければよいことなので、ここでは、あくまで彼らの音楽、そして彼らが自ら立ち上げたレーベルについての言及にとどめたいと思います。
いかに組織や活動内容が素晴らしくても、演奏される音楽のクオリティが高くないことには、オーケストラとしての意味はありません。その意味で、巻末に収録されている、コンサートマスターのアレクサンダー・バランチックへのインタビューは興味深いものがあります。彼はロンドン交響楽団時代からのMTTとの「相棒」ですが、彼が語るには、MTTは同じ曲を演奏すると、常に前とは全く別の演奏になっているのだそうです。これこそが、クラシック音楽がいつも「同じ」ものなのに、演奏ごとに感動を与えられる原点なのではないでしょうか。伝え聞いた日本の某中堅指揮者O氏の話(客演したすべてのオケで、全く同じ個所で同じ注意をするというリハーサルを行っている)とは全く反対の地点に、MTTはあるということなのでしょう。そんな人に率いられているオーケストラに、活気がないはずがありません。
マーラーですっかり有名になったレーベル「SFS Media」ですが、実はこれがオーケストラの自主レーベルとしては世界初のものであることも、本書で知ることが出来ました。さらに、2001年に立ち上げられたレーベルは、最初からDSD録音によるSACDというフォーマットで出発したというのも、注目すべきことです。この時期は、まだDSD自体が開発されたばかりのものですから、その開発者であるSONYとの協力のもとに始められていたのですね。そもそも、このレーベルを立ち上げることになったのは、それまでのパートナーであったRCAがマーラーのリリースをためらったためでした。もはやそのようなメジャー・レーベルは自分たちの望むものをリリースできる状態ではなくなっていることを察して、早々に見限ったのも、先見の明があったということでしょう。その後、世界中のオーケストラが追従して自主レーベルを立ち上げることになりますし、メジャー・レーベルの淘汰はさらに進んで、RCASONYに買収されてしまうのですからね。
このマーラー・ツィクルスの23枚組「ヴァイナル・エディション」に関して、「LPレコード、45回転」(187ページ)とあるのは、誤解を招く記述です。実際に45回転なのはボーナス盤1枚だけ、残りの22枚は通常の33回転盤なのですから。

Book Artwork © Artes Publishing Inc.
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by jurassic_oyaji | 2012-10-20 23:03 | 書籍 | Comments(0)