おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
ベーレンライター版と、ブライトコプフ新版
 きのうは、篠崎靖男さんが指揮をする「第9」を聴いてきました。と言っても、普通のコンサートではなく、東北文化学園大学の学内行事のような感じ、ハガキを出せば普通の人も入れる、というものです。篠崎さんは今年の年賀状(メールで全員に送ったもの)で、「11月11日には、萩ホールで仙台フィルを指揮します」とあったので、どんな演奏会なのか楽しみにしていたのですが、こういう形のものだったのですね。もちろん、ハガキを出して、招待券をもらっておきました。
c0039487_21291260.jpg

 篠崎さんの指揮は、ニューフィルを指揮していただいた12年前よりさらに進化していました。とても滑らかな音楽の運びで、サクサクと前へ進んでいきます。まさに、今の「世界の最前線」を聴いている思いでした。仙台フィルもしっかりついてきていましたし、その大学が主体となった合唱もとても素晴らしいものでした。
 篠崎さんには、Facebookのメッセージでは、終わったら楽屋で会えるような感じだったので、ステージの袖で待っていたら、とてもうれしそうに色んなお話が出来ました。たまにメールのやり取りはあったものの、お会いするのは12年ぶり、なんとも気さくな篠崎さんでした。写真まで撮らせてくれましたよ(その写真はFacebookで)。
 実は、この「第9」では、パート譜やスコアの表紙から、ブライトコプフの新版を使っているのが分かっていたので、そのことを聞いてみたら、ベーレンライターよりはこちらの方が良いようなことをおっしゃっていましたね。「ベーレンライターは、雑」と、私が思っていたのと同じようなこともおっしゃっていました。
 というのも、今は「かいほうげん」の方で、今度演奏するベートーヴェンの「1番」についての原典版の検証を行っているところなのですが、まさにそんな「雑」なところを発見してしまったものですから。
 そもそもは、第3楽章の11小節目の「f」の場所の違いから、旧版と最近の原典版を比べていたのですが、
c0039487_21292856.jpg

一番上が1862年のブライトコプフの全集版、アウフタクトなしの3小節目が問題のところなのですが、ここではfは2拍目についていますね。ところが、その下のふたつでは、1拍目にfがあります。上がベーレンライター版、下がブライトコプフ新版です。今は、こちらの方が正しいfの位置とされています。つまり、昔の全集版はミスプリントだったのですよ。
 ただ、原典版を作るにあたって参照しているのは、実は自筆稿ではありません。ベートーヴェンの自筆稿は、スコアもパート譜も現在では失われてしまっています。そこで、最も自筆稿に近いものとして、スコアでは1809年に出版された初版が資料となっています。それが、一番下の楽譜ですね。ここでは、確かにfは1拍目にあります。この後1822年に出版されたジムロック版で2拍目に変わったものが、全集でも踏襲され、それがそのままいろいろな楽譜に使われていたのですね。
 ところが、この初版では、その前の音形を繰り返す時に本来なら次の小節の3拍目に「p」があるべきなのに、それはさらに次の小節の1拍目についています。これは明らかなミスプリントだと思えるのですが、ベーレンライター版ではそのまま初版がコピーされています(この楽譜の次の小節の頭がpです)。しかし、ブライトコプフ新版では、きちんと「正しい」位置にpが来ているのですよ。
 こんな感じで、たとえ「原典版」と言っていても、そこでは校訂者の解釈によって様々な形のものが現れるものなのですね。楽譜だけではなく、演奏者の知恵も試されることになるのでしょう。試しにベーレンライター版が使われているCDで確かめたみたら、楽譜通り次の小節の1拍目からpで演奏している人など、誰もいませんでした。
[PR]
by jurassic_oyaji | 2012-11-12 21:29 | 禁断 | Comments(0)