おやぢの部屋2
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MOZART/Don Giovanni






Peter Sellars(Dir)
Craig Smith/
Arnord-Schönberg-Chor
Wiener Symphoniker
DECCA/071 4119(DVD)



ピーター・セラーズ演出の「ダ・ポンテ三部作」がいかにユニークであるかは、このシリーズのDVDのジャケットを見ただけで分かります。印刷されている文字は、作曲者とオペラのタイトル、そしてこの演出家の名前が全て、そこには、指揮者やプリマ・ドンナの入り込む隙間など、用意されてはいないのですから。ここで、もしかしたら、この映像の作られ方も、チェックしておかなければいけないのかもしれません。もともとはステージ用に作られたプロダクションでしたが、この収録に当たってはテレビ撮影用にスタジオが使われています。ただ、良くあるような、音楽だけ先に録音して、それに合わせて演技をするというようなものではなく、普通のオペラハウスと同じように、指揮者とオーケストラがいて、きちんと「生」で歌っている模様が撮影されています。前にご紹介した「コシ」では歌手が客席の中に入って歌うという演出があってその全貌が分かるのですが、その状況はおそらく他の作品でも同じことなのでしょう。スタジオといっても、かなりの客が入るスペースがあって、オケピットも備わっているという、昔のNHKホール(「お笑い三人組」とか、やっていましたね)のような感じのところです。
さて、この「ドン・ジョヴァンニ」では、舞台はニューヨークのハーレム、ドン・ジョヴァンニとレポレッロが黒人という設定です。もちろん、彼らは貴族などであるわけはなく、このあたりを縄張りにしているチンピラ、クスリはやるは、ピストルはぶっ放すはと、かなり危ないキャラ。この2人を演じているのが、ユージン・ペリーとハーバート・ペリーという、(たぶん)兄弟です。容姿も声も瓜二つ、このキャスティングは、単に話の中でお互いが入れ替わってドンナ・エルヴィラをだます時にリアリティを持たせるという以上の意味があるのは明らかです。この2人は原作のような主従関係ではなく、もっと固い絆で結ばれている「仲間」、もしかしたら、お互いの一部を共有しているほどのつながりを持った関係なのかもしれません。その感触は、ゾンビと化したドンナ・アンナの父により、マンホールの中に「分身」が身を沈められたあとのレポレッロの取り乱し方からも確認できるはずです。原作のように、主人が死んだら悔い改めて新たな道を求めるというような脳天気なことは起こりえない、やり場のない「暗さ」を造り出すのが、このセラーズの演出の目論見の一つなのかもしれません。そのエンディングで、合唱団員の女性が豊満な胸を披露してくれるのも、決して単なるサービスカットではないむね、ご承知おき下さい。
ここで、字幕にも注目してみましょう。これは輸入盤ですから英語の字幕しかないのですが、それでも、原作通りに歌われている元のイタリア語に対して、かなり演出に沿った読み替えが施されているのが分かります。もともとは「お屋敷」だったものが「俺のシマ」みたいに(事実、2幕の晩餐は路上に座ってマクドナルドのハンバーガーをかぶりつくというものですし、バンダはラジカセなのですから)。
音楽的には、例えば、現在では殆どカットされることの多い第2幕のウィーン版によるレポレッロとツェルリーナのデュエットが聴けるのは嬉しいものです。しかし、クレイグ・スミスの作り出す音楽は、それだけではなんの力も持たないとことん生ぬるいものに終始しています。
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by jurassic_oyaji | 2005-05-25 20:06 | オペラ | Comments(0)