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音響技術史~音の記録の歴史~
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森芳久、君塚雅憲、亀川徹共著
東京藝術大学出版会刊
ISBN978-4-904049-25-9



最近の録音技術は日々進歩をしていますから、それに関する資料もすぐヒビが入って古くなってしまいます。インターネットの情報はあまりにもいい加減ですし、専門的な書籍の大半は、あまりにも出版されてから時間が経ち過ぎていて(この世界、5年前の知識など全く役に立ちません)何の価値もありません。そんな中で、たまたま見つかったこの本は、1年半ほど前に出版されたもの、ギリギリで現在でも通用する情報が載っているのでは、という期待を持って入手してみました。
出版社が「藝大」というのが気になるところですが、恐らくこれはそのような芸術系大学での教科書として作られたものなのでしょう。ところが、いかにも教科書っぽい地味な装丁のなかに、恐らく、この教科書を使って「音響学」あたりの講義を受けるであろう大学生などは、その現物すら見たこともないようなオーディオ・パーツである「ムービング・コイル」タイプの「カートリッジ」の超拡大断面図などというものがあったのには、ただならないものを感じないわけにはいきません。
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期待通り、本文は、最新の技術情報まできちんと網羅した、とても丁寧に作られたものでした。それは、エジソンが「フォノグラフ」を発明する以前に、すでに音を記録する機械「フォノトグラフ」を発明したレオン・スコットという人物の存在から始まります。ただ、それは単に「記録」するだけで「再生」はできなかったものが、今世紀になってコンピューター処理によって再生もできるようになったのだそうです。このあたりから、すでに音響史を塗り替えるような記述です。
それに続く歴史は、今までに多くの資料からすでに得られていた事柄が並ぶことになるのですが、著者(大半は森さんが執筆しています)の語り口には単に文献をなぞるだけの素っ気なさは全くなく、何か実況中継を見ているような生々しさが込められているものですから、とても楽しく読めてしまいます。辛抱の足らない学生たちも、これにはきっと飽きることは無いでしょう。それは、先ほどのエジソンの発明の場面もそうですし、さらにはLPレコードを発明したピーター・ゴールドマークの仕事ぶりの記述などにもいかんなく発揮されています。
そのような、歴史的な出来事の一つとして、「デジタル録音」も語られています。NHKによる世界初のデジタル録音機のデモの様子や、その後ソニーによって開発され、やはり世界初の共通規格によるデジタルメディアとなったCDの誕生の経緯などは、筆者が当事者と極めて近い立場もあったことによって、劇的な記述となりました。これはまさに「当時」ならではの生々しい語り口です。なんせ、その時に共同開発者のフィリップスが主張したのは、14bitという規格だったのですからね。それを、あくまで将来的な望みを託して最後まで16bitを譲らなかったソニーの姿勢は、立派だったというほかはありません。その頃は、開発に携わった人たちが、このフォーマットがLPよりすべての点で優れたものであり、それまでになかった最高のクオリティのものであることを信じて疑わなかったことも、ここからはまざまざとうかがえます。これは、当時の様子を伝える、まさに「一次資料」です。
もちろん、筆者はそんな過去の事例にはこだわらず、より高音質のフォーマットであるSACDについても、しっかり言及します。ただ、ここではあくまでそのソースがDSDによるものと限定しているのは、やはり1年半前の認識なのでしょう。現在のSACDのソースや配信ソフトの大半を占めるハイレゾPCM音源についてもきちんと語られていたならば、言うことはなかったのですが。
いずれにしても、いやしくも録音メディアに関わっている人ならば、ここに示されている情報ぐらいは最低限知っておかなければいけません。

Book Artwork © Tokyo Geidai Press
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by jurassic_oyaji | 2012-11-28 00:18 | 書籍 | Comments(0)