おやぢの部屋2
jurassic.exblog.jp
ブログトップ
WALCHA/Choral Preludes Volume I
c0039487_2042039.jpg




Wolfgang Rübsam(Org)
NAXOS/8.572910




ヘルムート・ヴァルヒャという高圧洗浄機(それは「ケルヒャー」)みたいな名前の人は、DGの「研究レーベル」であるARCHIVに、2度にわたってバッハのオルガン全集を録音したオルガニストとして知られています。それぞれ、当時は珍しかったヒストリカル・オルガンを用いて演奏したという、まさに「原典」とも言うべきその録音は、殆どバッハのオルガン曲の「規範」として、長い間レコード界に君臨していたのではないでしょうか。その厳格な演奏は、時代が変わっても確かな意味を持つものには違いありません。
バッハゆかりの街、ライプツィヒに生まれたヴァルヒャは、幼いころから聖トマス教会で演奏されるバッハのカンタータを聴いて過ごし、最初の音楽教育を、その教会のカントルであるギュンター・ラミンから受けた、まさにバッハを演奏するために育ったような人でした。しかし、生まれつき弱視であったうえに、10代後半には完全に失明してしまったヴァルヒャにとって、複雑な対位法を駆使したバッハの曲を勉強するのは、とても大変だったことでしょう。伝えられるところによると、彼は母親(結婚してからは奥さん)に弾いてもらったそれぞれのパートを、すべて憶えてしまったということです。まあ、最近では同じような境遇にある日本人のピアニストのケースが大々的に話題になっていますから、それがどれほどハードなものであるかをより一層知ることが出来ることでしょう。
そんなヴァルヒャが、実は作曲も行っていたことを、このCDによって初めて知りました。ここに収録されているのは、1954年にペータースから出版された25曲から成る「コラール前奏曲第1集」ですが、それ以後この曲集は第4集まで出版されることになったのだそうです。さっきの日本人ピアニストも最近は「作曲」を行っているようですが、現代ではそのようなハンディキャップがあっても、「作曲」という作業自体はそれほど困難なことではなくなっています。別に五線紙に書きとめなくても、演奏した「音」がそのまま出版物として認められるような時代なのですからね(現代の「音楽出版」というのは、実はほとんどそのような形で行われています。楽譜などは、ただの覚書に過ぎません)。しかし、ヴァルヒャの時代にはそうはいきません。今でもそうですが、特にクラシックの場合は最初に楽譜ありきという状態は厳然と存在していますから、おそらく彼の場合は、バッハを勉強したのとは逆の手順で、「楽譜」を作っていったのでしょうね。彼が演奏した頭の中の音楽を、奥さんなどが記譜していったのでしょう。
そのようにして出来上がったそれぞれ2、3分ほどの作品は、教育のために広く用いられていたそうです。ヴァルヒャ自身も、多くの弟子を育てていましたが、おそらくこれらを「教材」として教えていたのでしょうね。このCDで演奏しているアメリカ在住のオルガニスト、ヴォルフガング・リュプサムもそんな弟子の一人、今回の「第1集」に続いて、すでに「第2集」もリリースされていますから、おそらく全4集を録音してくれるのではないでしょうか。
バッハの膨大なコラール前奏曲と同様、これらの曲も良く知られた讃美歌のテーマをもとに、様々に修飾を施して演奏されたものです。その手法は、ぼんやり聴いている分には、まさにバッハその人のものとほとんど変わらないような気がしてくるものばかりです。ヴァルヒャの脳の中にはバッハの音符が完璧にコピーされています。バッハ自身がヴァルヒャの肉体を借りて憑依することなど、恐山のイタコによる「口寄せ」などよりはるかに簡単なことだったに違いありません。それにしても、第20番「ただ愛する神の力に委ねる者は」で、「♪宵闇迫れば~」というフランク永井の「君恋し」のフレーズが聴こえてきたのには、びっくりしてしまいました。

CD Artwork © Naxos Rights International Ltd.
[PR]
by jurassic_oyaji | 2012-12-17 20:08 | オルガン | Comments(0)