Jane Henschel(Sop)
Mark Stone(Bar)
Ulf Schirmer/
Chor des Bayerixchen Rundfunks
Münchner Rundfunkorchester
BR/900316
ミュンヘンのオペラハウスと言えば「バイエルン州立歌劇場(
Bayerische Staatsoper)」が有名です。朝から晩までオペラをやってます(それは「
終日歌劇場」)。ただ、これは建物をあらわす言葉ではなく、プロダクションとしての名前なのだそうです。メインのオペラハウス(収容数
2100人)の建物自体は「
Nationaltheater(ナツィオナルテアター)」というのが正式名称になります。さらに、それ以外にも管轄下にあるオペラハウスがいくつかあります。そのひとつが、
1901年にオープンした客席数
1300というちょっと小ぶりの「プリンツレゲンテン劇場」です。なんでも、この劇場はワーグナーが作ったバイロイトの祝祭劇場を真似て作られたのだそうで、確かに客席は普通のオペラハウスのような馬蹄形ではなく、バイロイトのように客席がすべてステージに向けて配置された、傾斜を持ったワンフロアになっています。
そのプリンツレゲンテン劇場で昨年5月に上演されたのが、ブロードウェイ・ミュージカルの「スウィニー・トッド」です。この劇場を本拠地としているミュンヘン放送管弦楽団の創立
60周年にちなんだイベントの一環としてコンサート形式で上演されたもので、もちろんバイエルン放送によってそのライブが放送されました。
この作品は「ミュージカル」ですから、アメリカ以外でのプロダクションが上演する時には、その国の言葉に翻訳されるのが普通です。日本でも何度か上演されたことがありますが、それらはきちんと日本語で歌われていました。ですから、ミュンヘンで上演される時にはドイツ語になるのでは、と思っても不思議ではありませんが、この
CDからはきちんと英語の歌詞が聴こえてきましたよ。もしかしたら、この上演を企画した人たちは、この作品を「ミュージカル」、あるいは、このオーケストラが日常的に演奏している「オペレッタ」ではなく「オペラ」ととらえたのかもしれませんね。ガーシュウィンの「ポーギーとベス」がそうであるように、「オペラ」と認められればたとえ初演がブロードウェイであろうと、きちんと「原語」である英語で上演してもらえるのでしょう。もしかしたら、劇場ではドイツ語の字幕が表示されていたかもしれませんね。もちろん、作曲者ソンドハイムが同時に作詞まで担当しているのですから、英語で歌われるのが理想的なのは言うまでもありません。
実際、キャストを見ると英語圏の国の人のような名前が大半を占めています。予定ではトーマス・アレンのようなオペラ歌手もキャスティングされていたようですが、実際の公演では別の人になっています。アレンは一体どの役を歌うはずだったのか、気になるところです。ターピン判事あたりでしょうか。まさか、トッドではないでしょうね。
このミュージカルは、ご存じのように
2007年にジョニー・デップがタイトル・ロールを務めた
映画が作られました。それを見ているので、
CDに対訳が付いていなくても、あらすじや情景はほとんど思い浮かべることは出来ます。ただ、出来れば梗概だけではなく、ちゃんとした対訳が欲しかったところです。というのも、キャストによっては映画などで歌っている人とまるで別なキャラクターの持ち主が歌っていたりするものですから、一体これは誰なのか、というところがたくさん出てきてしまうのですよね。一番違和感があったのが、ジョアンナに思いを寄せるアンソニー・ホープを歌っている人。映画でもオリジナル・キャストでも、この役は若々しく軽やかな声の人だったのに、ここではかなりドスのきいたおじさんですから、イメージが全く伝わってきません。
オーケストラはさすがに華麗さと繊細さを兼ね備えた立派な演奏を聴かせてくれますが、キャストに関しては映画版ほどは楽しめませんでした。それと、恐らく会場では
PA用のピンマイクを付けて歌っていたのでしょうが、なにか、常に出来の悪い
PAからの音を聴かされているようで、落ち着きませんでした。
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