おやぢの部屋2
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Trollfågeln
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Emilia Amper(Nyckelharpa, Voc)
Johan Hedin(Nyckelharpa)
Andres Löfberg(Vc)
Dan Svensson(Perc)
BIS/BIS-2013 SACD(hybrid SACD)




BISの品番がついに2000を超えましたね。「BIS-1000」はBCJの「マタイ」ですが、これがリリースされたのが1999年ですので、13年とちょっとでさらに1000のアイテムをリリースしたことになりますね。数ではNAXOSあたりには及びませんが、それぞれのタイトルの完成度を考えたら、これは驚異的な数字です。
BISの場合、多くのタイトルがSACDであることも高ポイントの要因です。最近では録音のオリジナル・フォーマットもきちんと記載してくれていますから、安心して聴いていられます。今回も、そんなハイレゾならではの細やかな表現力が存分に発揮されたアルバムに仕上がっていますよ。
ジャケットを見て、「これはいったいなんだ!?」と思われた方は少なくないことでしょう。なにやらハーディ・ガーディによく似た、キーがたくさんついた弦楽器ですね。ハーディ・ガーディはハンドルを回して音を出しますが、これはヴァイオリンのように弓を使って演奏します。その時には首からストラップで支えますから、まるであの「ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ」みたいな構え方をして演奏することになります。
この楽器の名前は「ニッケルハルパ」、はるか600年以上前から伝わるというスウェーデンの楽器です。スウェーデン語で「キーのついたフィドル」という意味だそうですから、そのまんまですね。下の写真を見ればわかるように、おびただしい数のキーによって、弦の途中を押さえて弦の長さを変え、音程を作るというものです。このシステムはまさに「クラヴィコード」そのものですね。あるいは「大正琴」でしょうか。
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弦は全部で16本。そのうちの4本だけが直接弓によって弾かれる弦ですが、キーによって音程が変えられるのは3本だけ(メロディ弦)で、一番低い弦は同じ音しか出ないドローン弦です。残りの12本は、その4本の弦の少し下に張られている共鳴弦です。キーは3段になっていて、それぞれ3本のメロディ弦を押さえることになります。この楽器の場合は高い方の弦から24個、14個、14個と、合計52個のキーが半音間隔で並んでいます。
もちろん、昔からこんな複雑な形をしていたのではなく、このような「クロマティック・ニッケルハルパ」は1929年にアウグスト・ボリーンという人によって作られたのだそうです。今ではスウェーデンには何万人ものニッケルハルパ奏者が活躍していますし、なんと「日本ニッケルハルパ協会」などというものも有るんですって。
若くて美しいエミリア・アンペル嬢の演奏によって初めて味わったニッケルハルパの音は、その物々しい外観同様、信じられないほど変化に富んだものでした。それは1曲目、彼女のオリジナルの「Till Maria」という曲でものすごいインパクトとともに明らかにされます。単音を伸ばしているだけなのに、弓の微妙な加減で刻一刻倍音の成分が変わり、なんとも言えない宇宙が広がります。そこに、彼女自身のヴォーカルが、あたかも楽器の一部のように加わると、その世界はさらに色彩を増します。この演奏によって、この楽器の可能性は、殆どアヴァン・ギャルドの領域にまでも及んでいることを知らしめているのではないでしょうか。
かと思うと、いとも素朴なトラディショナルな曲では、この楽器本来の民族性を思う存分楽しませてくれますし、さらには、ロックのテイストまで持ち込んだハードな曲も聴かせてくれます。もろ、クラシカルなストリング・アンサンブルとの共演もありますしね。
しかし、そんな風に様々なジャンルの音楽との融合を図ろうとしている中でも、決してこの楽器の本来のバックグラウンドから外れたような擦り寄り方はせず、一本筋を通しているところが、非常に好感が持てます。彼女は、この楽器だけではなく、この楽器が生まれた文化そのものを心から愛していることが、とてもよく伝わってくるアルバムです。

SACD Artwork © BIS Records AB
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by jurassic_oyaji | 2013-02-15 21:00 | 現代音楽 | Comments(0)