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未完成/大作曲家たちの「謎」を読み解く
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中川右介著
角川マガジンズ刊(角川SSC新書170)
ISBN978-4-04-731593-8



クラシックの作品の中には、何らかの事情で未完に終わってしまったものがいくつかあります(蜜柑が終わったら甘夏ですね)。そんな作品たちが、なぜ「未完成」になってしまったかという創作上の事情から、それが現代ではきちんとした作品として受容されるに至った経過、そしてそれらに関わった人たちの姿までを、膨大な資料を駆使して、まるで見てきたかのように生々しく語った労作です。
ここで著者が取り上げた「未完成」の作品は6つ、シューベルトの、その名も「未完成」という交響曲、ブルックナーの交響曲第9番、マーラーの交響曲第10番、ショスタコーヴィチのオペラ「オランゴ」、プッチーニのオペラ「トゥーランドット」、そしてモーツァルトの「レクイエム」です。
どのケースでも、著者は徹底して客観的な事実を集め、真実だと思われることだけを述べることに全力を尽くそうと努力しているように思えます。そこからは、今まで広く信じられてきた「俗説」がいかに間違ったものであるかをなんとしてでも明らかにしようという執念のようなものすら、感じることは出来ないでしょうか。真実を知ったからと言って、必ずしも幸せになれるとは限りません。「俗説」に包まれてある意味「幸せ」だったものを、身も蓋もない「真実」という「不幸の底」につき落とすことに、彼は命を賭けているかのように見えます。もちろん、そんな、人に疎まれる事を進んでやらない人がいなければ、この世に「真実」をもたらすことはできません。それが「マニア」の性なのでしょう。
そんな「俗説狩り」の最もダイナミックな「生贄」は、「マーラーは、9番目の交響曲を作るとベートーヴェンのように死んでしまうと思い、『大地の歌』には番号をつけなかった」というものではないでしょうか。そもそも、そのような「ジンクス」は、妻アルマが回想録の中で書いているだけで、マーラー自身が本当にそのように思っていたわけではないという証拠もあるのだそうです。
「トゥーランドット」の部分では、未完成となった経緯も詳細に語られていますが、それ以上に興味をひかれたのは、その初演を行ったトスカニーニの行動についての著者の「推理」です。すでに、アルファーノによって完成されたものがあったにもかかわらず、初演の時にはトスカニーニはプッチーニが作ったところまでしか演奏しなかった、という有名な逸話に関しての著者のリサーチは、当時のイタリアの最高権力者との確執まで引きずり出して、まるでオペラ以上にドラマティックな結末を教えてくれています。結局、最大の被害者はアルファーノだということになるのですが、そこで話を落ち着かせずに、もう一つの補作を行ったルチアーノ・ベリオまで話を持って行って欲しかったな、という思いは残ります。
ショスタコーヴィチの「オランゴ」については、ここで初めて知ることが出来ました。なんせ、2004年になって、今まで全く存在が知られていなかったオペラ用のスケッチが見つかったというのですからね。さいわい、それは捏造されたものではなく、2011年にはしっかり「初演」が行われ、その録音も翌年にはリリースされています。それよりも、著者がソロモン・ヴォルコフの「回想」を捏造と決めつけている方が気になります。
もっと気になるのは、モーツァルトの「レクイエム」では終始ジュスマイヤーの仕事を中心に「俗説狩り」を行っているにもかかわらず、2003年のアーノンクールや1999年のアバドの録音が参考音源として紹介されていることです。ジュスマイヤーの補作による演奏は他にいくらでもあるのに、なぜよりによってフランツ・バイヤーがさらに補筆したものや、その上にロバート・レヴィンの補作もランダムに加えたもので演奏している音源を取り上げたのか、これこそが、本書における最大の「謎」です。

Book Artwork © Kadokawa Magazines Inc.
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by jurassic_oyaji | 2013-02-17 21:11 | 書籍 | Comments(2)
Commented by desire_san at 2013-02-19 08:42
はじめまして。
大作曲家たちの未完成の曲についてのお話、大変興味深く読ませていただきました。
「トゥーランドット」は好きなオペラなので、たしかにプッチーニの他の傑作オペラと比べると終わり方に違和感を感じます。
私はマーラー「交響曲第10番」のクック版による補筆完成版の演奏を聴いてきました。
感じたところをブログに書いてみましたので、ご意見、ご感想などコメントをいただけると感謝します。
Commented by jurassic_oyaji at 2013-02-19 15:11
desire_sanさん、コメントありがとうございました。
実は、マーラーの交響曲は、9番まではしっかり聴いているのですが、いまだに10番はきちんと全曲を聴いたことがありません。やはりマーラー以外の人がオーケストレーションをしたというところで、引っかかるのでしょうね。
手元にCDはあるので、こんど聴いてみたいと思います。