おやぢの部屋2
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WAGNER/Die Walküre
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Jonas Kaufmann(Siegmund), Anja Kampe(Sieglinde)
Nina Stemme(Brünnhilde), René Pape(Wotan)
Valery Gergiev/
Mariinsky Orchestra
MARIINSKY/MAR0527(hybrid SACD)




2009年にスタートしたマリインスキー劇場の自主レーベルは、それほど数は出ていませんがそれぞれが厳選されているという印象はあります。今回のアイテムもかなり手間がかかっています。ゲルギエフ指揮の「ワルキューレ」の全曲盤ですが、劇場でのオペラではなく、マリインスキーのコンサートホールでの演奏会形式による上演を録音したものです。
そのデータを見てみると、なんと、この1作品について2011年6月から2012年の4月にわたって3回のセッションが持たれていることが分かります。それぞれ3日間から4日間かけて、実際のコンサートやリハーサルを収録して編集しているのでしょう。それぞれの時期には1つの幕だけしか演奏しなかったのでしょうか。しかし、出演している歌手はカウフマンを始め今や世界中のオペラハウスで活躍している超売れっ子たちばかりですから、もしかしたらすべてのキャストを同じ時期に集めることが出来なかったから、分けて収録したのかもしれませんね。確かに、3つの幕すべてに出演しているのはジークリンデだけですし、フンディンク、フリッカ、そして8人のワルキューレたちに至っては、1つの幕だけにしか出てきませんからね。
ブックレットには、その第1幕のコンサートの写真が載っていました。3人の歌手はステージ後ろの山台で燕尾服とロングドレスで歌っています。一方、オーケストラの男性メンバーは燕尾ではなく黒いシャツを着ています。ラフな感じ。女性はなにも着てません(それは「裸婦」)。面白いのは、指揮者のゲルギエフが、指揮台を使わずにベタで指揮をしていることでしょうか。ただ、ワーグナーにしては弦楽器の人数が少なめというのがちょっと気になります。ファースト・ヴァイオリンが12人しかいませんよ。例えばショルティの録音セッションの写真などではファースト・ヴァイオリンは16人写っていましたから、そのぐらいが現代のワーグナーの録音では標準のはず。まあ、ピットの小さなオペラハウスではこういうこともあるかもしれませんが、ここはコンサートホールですから別に制約はありません。なんたって、このオーケストラは劇場とコンサートホールで同時に公演が行われても十分なだけの人数を確保していますから、総勢200人以上、ファースト・ヴァイオリンだけで37人というものすごいメンバーですので、人が足らなかったというわけでもありません。
ということは、ゲルギエフは意識してこのような少なめの弦楽器の編成を用いた、ということになるのでしょう。確かに、これぐらいの弦楽器だと、オーケストラのサウンドがとても澄み切って聴こえてきます。バランス的にも、埋もれてしまいがちな木管楽器が、とてもはっきりしてきます。そのため、特に第1幕のようなしっとりとした場面が続くところでは、とても繊細で、ほとんど室内楽のような音楽を聴くことが出来ました。これは、今まで何度となく聴いてきた「ワルキューレ」のイメージを一新させられるような衝撃的な出来事でした。
ところが、そのような場面ではない、もっと「力強さ」が必要なところでは、そんなサウンドは全く裏目に出てしまっています。そもそも、第1幕の前奏曲からして「嵐」の情景とは程遠い薄さだと思っていたのですが、フンディンクの登場の場面でその「薄さ」は致命的なものになります。彼に付けられた音楽からは、全然「悪役」というイメージがわいてこないのですよね。ですから、第3幕の前奏曲(「ワルキューレの騎行」)などは悲惨です。普通にこの曲が持つとされている勇壮さがまるで感じられないのですからね。最近では、そういう演出のステージもありますが、コンサートで聴くときにはこれでは全然物足りません。
まあ、カウフマンのジークムントが聴けるのだから、それだけで満足なのですがね。

SACD Artwork © State Academic Mariinsky Theatre
by jurassic_oyaji | 2013-02-20 01:12 | オペラ | Comments(0)