おやぢの部屋2
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American Angels





Anonymous 4
HARMONIA MUNDI/HMU 807326(hybrid SACD)



このCDのジャケットには、「キルト」がデザインされています。このタイトルに使われているのは、緑の山々が連なる何とものどかな光景が1枚だけですが、CDケースを開けてCDを取り出すと、その後ろには同じような肌触りのキルトが9枚現れます。そして、ブックレットの最後では、それらも含めた全部で36枚のキルトが所狭しと並んでいるのです。そんな素朴なキルトの写真を眺めているだけで、すでに、いかにも古き良きアメリカと言った佇まいがひしひしと伝わってきます。
中世から現代まで、様々な音楽を彼女らなりの手法で紹介してくれてきた「アノニマス4」の新しいアルバムは、そんなぬくもりあふれるアメリカの伝承歌を集めたものになりました。元々は中世の音楽を演奏するために結成されたこの4人組の女声ヴォーカル・グループは、現代のアカデミックな発声からは距離を置いた、素朴とも言える響きによって、そんな時代を表現するにはうってつけの世界を繰り広げています。ここで紹介されているのは、もちろん時代的にはもっと先の18世紀から19世紀のものですが、ここでの彼女らの演奏を聴くと、例えば楽譜では書き表せないような微妙な音程や装飾という、いわば「口伝え」で伝えられるような性質の表現には、時代が変わっても共通するものがあることがよく分かります。ハーモニーでも、まるでオルガヌムのように5度で響き合うことが多いのも、そんな印象を助長するものなのかもしれません。
そんな中で、よく知られたゴスペル・ソング、「Sweet By and By」や「Shall We Gather at the River」あたりは、洗練されたハーモニーと、対位法的な処理も見られるという、聴き応えのあるものになっています。ただ、ここで取り上げられている伝承歌から見えてくる「アメリカ」というのは、あくまで、最初にこの地に移住してきた、いわゆる「アングロ・アメリカン」の範疇にあることは、注意しておかなければならないでしょう。もう少し時代が下がると、「アメリカ」にはそれまでのヨーロッパとは別の起源を持つ音楽が入り込んでくることになります。いうまでもなく、それは「アフリカ」の音楽。現在ではそのアフリカ系の音楽、ブルース、ジャズ、ソウル、そしてヒップ・ホップが、アメリカだけではなく、全世界を支配しているのは、言うまでもありません。
そんな、逞しいばかりのパワーを持った勢力によって、殆ど歴史の片隅に押しやられてしまったか弱い「天使」たち、巷ではかの「勢力」の持ち歌であるあの「Amazing Grace」が圧倒的な力で迫ってくる中では、この歌の元となったであろう「New Britain」は、いかにも頼りなさげに聞こえます。しかし、アノニマス4の、決して「澄み切った」とは言えないようなクセのあるハーモニーで歌われたとき、これらの歌は本来持っていたはずの力強さを取り戻すことが出来たのかもしれません(頼みますよ)。リーダー格のマーシャ・ジェネンスキーのちょっとだみ声に近いソプラノを聴けば、その思いはさらに強まることでしょう。
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by jurassic_oyaji | 2005-06-03 19:06 | 合唱 | Comments(0)