おやぢの部屋2
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LLOYD WEBBER/Phantasia
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Sarah Chan(Vn)
Julian Lloyd Webber(Vc)
Simon Lee/
The London Orchestra
EMI/558043 2
(輸入盤)
東芝
EMI/TOCE-55730(国内盤 7月13日発売予定)


つい最近映画版「オペラ座の怪人」(あのオープニング、埃にまみれたセットはすごかったですね・・・「オペラ座の灰燼」)のサントラ盤をご紹介したばかりですが、これはその副産物のような企画です。2004年、この大ヒットミュージカルの映画化に当たって、その華麗なサウンドを担うべくコンサート・マスターのピーター・マニングの許に集結したロンドンの腕利きのオーケストラ・プレーヤーたちは、2005年2月、再び、今度は全く異なるアプローチの「オペラ座の怪人」を作り上げるために、スタジオに集まったのです。もちろん、指揮を担当したのは、サントラと同じサイモン・リー、そして、今回はソロとして「天才少女」サラ・チャンのヴァイオリンと、作曲者アンドリューの弟、ジュリアン・ロイド・ウェッバーのチェロが加わります。つまり、この「ファンタジア」という作品は、ヴァイオリンとチェロをそれぞれこのミュージカルの登場人物の2人、クリスティーヌとファントムに見立てた二重協奏曲という体裁を持つものなのです。ちなみに、この編曲を行ったのは、ハリウッドでオーケストレーターとして活躍しているジェフリー・アレクサンダー、アンドリュー自身は、魅惑的なメロディーを作り出す才能には長けていますが、このような「サウンド」を作り出す能力はありません。
オープニングは、映画でおなじみ、「Masquerade」のオルゴールバージョンです。そして、型どおりオーバチュアである「The Phantom of the Opera」の半音階のイントロへと続きます。ただ、ここでソリストたちが行っているのは、テーマに重ねてひたすら技巧的なパッセージを紡ぎ出すこと、あの心地よいメロディーに浸りきりたいというリスナーの望みには、しばし辛抱が伴うことになります。そのあとには、殆ど意味のないカデンツァまでも披露されるのですから。しかし、「Think of Me」、「Angel of Music」と続く頃には、甘く歌い上げるヴァイオリンやチェロの調べに酔えるだけの余裕も出てくることでしょう。「Don Juan」の無機的な全音音階にその空気が打ち破られるまでは。何しろ、このアレクサンダーの編曲はとても一筋縄ではいかない凝ったもの。オリジナルのミュージカルのことは出来れば忘れて欲しいと言わんばかりの、ひねくれた挿入と、そしてソリストたちの執拗なまでの技巧のひけらかしの連続です。
しかし、名曲「All I Ask You」ともなれば、いくら何でもコテコテに歌い上げないわけにはいきません。チェロはひとときラウルに成り代わったように、愛のデュエットが繰り広げられます。そのまま「Masquerade」に移ったあたりが「第2部」でしょうか、またもや2人のソロによる長大なカデンツァが披露されたあと、なんと聞こえてくるのは映画のために新たに作られた「Learn to Be Lonely」ではありませんか。最初からそこにいたような顔をして、しっかりその存在を主張するふてぶてしさは、ある意味見事です。「The Point of No Return」に続いて、エンディングは「The Music of the Night」、この、ファントムのクリスティーヌに寄せる思いのたけを綴った、悲しいほどに美しいナンバーが最後に控えているのは、このミュージカルのファンにも、そしてヴァイオリニストとチェリストのファンにも決して満足のいくことのない中途半端な編曲の罪滅ぼしにさえ感じられる、心を打つ配慮です。
カップリングの「ウーマン・イン・ホワイト組曲」では、そのようなストレスから離れて、この2004年に公開されたばかりの最新作のエキスが、ローレンス・ロマンの素直な編曲によって存分に楽しめることでしょう。

by jurassic_oyaji | 2005-06-08 19:29 | オーケストラ | Comments(0)